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「今日まで頑張ってきたのに。止めちゃうのは嫌です」
「……そうだな、ルウの努力を無駄には出来ない…な」
渋々なのが伝わってくる。
あと、穴が開くほど見てくるのも止めて欲しいけど、気に入ってくれたみたいで安心した。
「ふふっ」
見つめ合って照れくさそうに笑い合う。
束の間の穏やかな時間に心が温かくなるが、そんな幸せは直ぐに終わってしまう。
複数の駆け足のような音が近付いてくることに気付き、ロカが私を庇うように前に出る。
「ロカ様、ルウ様、大変です!」廊下で待機していたヨウカが慌てて入ってきた。その後ろには兵達が立っていた。
「なんだ?」
「実は……」と説明してくれた話はこうだった。
婚儀で兵が手薄になったところを狙い逃げ出した罪人が数名いて、その中にはあのカドも含まれているという。
名前を耳にするだけであの日のことが頭を過る。また私の前に現れるの……?
「おそらくカドの協力者が企てたことか。まだ残っていたか……あの牢獄から逃がすことが出来る者となると…」
琥珀の瞳が鋭く光る。
こめかみには青筋が浮かび上がっていて、誰かがごくりっと飲み込んだ唾の音が聞こえるほど静まり返った。
「余程邪魔をしたいらしいな」
「……」
鬼気迫る様子に私とヨウカは無意識に身を寄せ合っていた。
「まだ時間はあるな、少し席を外す」
「……え」
「不安にさせてすまない。ルウの不安を取り除くためにも、終わらせてくる」
そう言いながら頬を優しく撫でた手が、壁に立て掛けられた長剣を取る。
「側にいてやってくれ」
ヨウカに目配せをし、出ていこうとする背中に「王!」と叫ぶ。振り返ろうとするよりも前にその背中へと抱きついた。
「……振り返らずに聞いてください」
声が震えそうになるけれど、今日は弱気にはならないと誓ったんだ。
「必ず帰ってきて」
「……ああ、間に合わせる」
ロカは振り返ることなく兵を連れて去って行く。その姿が見えなくなっても私は祈るように重ねた手を解くことが出来ない。
ロカが危険な目に合いませんように……!
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