28

本来ならばもっと時間を掛けて準備を行う婚儀だけど、ロカの采配で短期間で間に合わせてしまったらしい。

賑わう街の様子は式場ここまで伝わってくる。


「うーん」


鏡の中に知らない人がいて首を傾げてしまう。いつもより大人っぽい私がそこにいた。


「ふふ、ルウ様ったら変身したご自分が不思議でしょうがないんですね」


微笑ましいものを見るように、ヨウカが頬を緩めている。今日は着飾っていて可愛らしいけれど、変わらず忙しそうに働いている。気迫に溢れたヨウカは楽しそうだった。


「だって、別人みたい」


特注品のドレスも宝石も似合わないんじゃないかと不安で仕方がなかったけれど、化粧と髪型で上手く化かしてくれたらしい。ロカのような美しい人と並ぶのは畏れ多いけれど、普段と比べれば見違えるようだ。


「一日忙しくなります。特訓の成果を見せつけてやりましょう!」

「……うん」


今日は弱気にならないと決めたから、私を花嫁と認めない人達の視線にも負けないようにしたい。


「ロカ様が側にいれば大丈夫ですからね」

「うん!」


これからロカが控えている部屋まで移動することになっているのだけど、廊下には兵の姿がなかった。ここに来た時には居たはずなのにと首を傾げる。


「どうかしましたか?」と後ろに控えるヨウカが尋ねてくる。


「うーん? なんで誰もいない……?」

「それはロカ様の指示ですね」

「ん?」


理由はロカの独占欲なのだと言う。


「“その姿を一番に見る男は俺だ”そうです。安心してください、こちらからは見えないですが腕の立つ女性の兵が控えています」

「そうなんですねぇ」


言い出しそうなことだと納得してしまう。そこまですることなのかとは思うけど、私も一番に見てもらえると嬉しいと思う。

ここ数日はゆっくり話す時間もなく忙しくて、余計に緊張してしまう。どんな反応をしてくれるかな?


「こちらです」


案内された部屋の前で深呼吸をする。椅子に腰掛けたロカの後ろ姿が見え、そっと名前を呼んだ。

盛装したロカは眩しいくらいに美しくて、王らしく威厳があった。前髪を後ろになで上げている髪型が珍しいけれど、それもまた似合っている。

正面まで歩み寄るけれど何も言ってくれないので、ちらりと見上げれば眉間に皺を寄せていて難しそうな顔をしてた。


「……やはり式を取り止めようか」

「え……」


第一声が全く予想していなかったもので驚いてしまう。なんで?

困惑する私の手を取り、手の甲に口づけを落とされる。


「すまない、言葉にならないほど美しい。他の男に見せたくなくなってしまった」

「……」

「閉じ込めて二人だけで過ごしたくなる」


ロカの独占欲は強い。

でも、ここで発揮しなくても……。

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