27 Side 王

周りに人がいなくなったところを狙ったかのようにクドウが現れた。微笑を浮かべているが和やかな様子ではない。


「ねぇ、ロカ様」

「なんだ?」

「また記憶を持たない子が来たみたいなんだけど、どこに隠したの?」


射るような視線が向けられるが「なんのことだ?」と返す。


「僕が視察に出かけている間に来たみたいなんだよね。目撃者はいるのに姿が見えない」

「うちに連れて帰っただけだ」

「へぇ、珍しいね。いつも僕のことが理解出来ないって顔してたのに、どうして?」

「何か問題があるのか?」

「ないけどさぁ」


唇を尖らせ、面白くないと言いたげだ。


「まるで僕を遠ざけるかのように視察の仕事を押し付けてきたのかなって……思うんだよねぇ?」

「間が悪かっただけだろう」

「ふーん?」


暫しの沈黙の後、笑みを崩さずにクドウが口を開く。


「これは僕の仮説なんだけどさ」

「ああ」

「記憶を持たない子たちっていうのは本来の死期と違うのに何らかの手違いでここに来てしまった子なんかじゃないかって思うんだ」

「……どうして?」

「えーっと、ただの勘?」

「……」

「嗚呼、ロカ様怒らないで! ただ、僕はいろんな子と接してきたでしょう? みんな“死”の匂いが薄いんだよね」

「匂い?」

「あんまり話したことが無いんだけどねぇ、うちの家系って鼻が利くみたいなんだ。昔のご先祖様は現し世で死期の迫った者のお世話をしてたみたいだし、その名残なのか“死”の匂いが分かる」


聞いたことのない話だが、現し世には“死相”や“虫の知らせ”という言葉があるそうで、匂いというものも否定は出来ない。


「そうだ、新しい子にも会わせてみてよ。会えば分かると思うんだよねぇ」

「駄目だ」

「えっ」


今は誰かに会わせる気がない。……クドウの髪の色があの男を思い出させるというのもあるが。


「なんでそんな冷たい目で見るの!? ロカ様どうしたの?独占欲?」

「そうだが?」

「えっ」


軽口を叩いたつもりのようだが肯定されたことで、間抜けな表情になっている。


「ねぇ、その子に興味津々なんだけど! 会わせてよ」

「駄目だ」

「ケチ」


何が面白いのか含み笑いをしている。ルウに興味を持たれたくもないし、油断の出来ない男なので不都合なことに気付かれるかもしれない。


「そろそろ帰ってくれないか。俺はまだ仕事がある」

「そうだね、その書類の山を見たら邪魔は出来ない。……最後に一ついい?」

「なんだ?」


笑みを消し、真面目な顔を見せる。


「あり得ないけどさ、ロカ様がその子の死に関わってるんじゃないかって思ったけど違うよね?」

「意味が分からない。どうしてそう思った?」

「えー、これも勘?」


この男にルウを会わせるのは危険だ。

俺は冥王に相応しい余裕の笑みを作る、感情を読み取られないように。


「お前の勘が当てにならないと分かったよ」


クドウは「そっかぁ」と頬を掻いた。

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