25 Side 王

あの現し世を映す姿見がまた妖しく光っていた。男と彼女が見つめ合っているが和やかな様子ではない。


『ルーちゃん、昨日はあの留学生と一緒だった? 目撃した奴がいるんだけど……』

『うん、ロカくんにお祭りを案内してたよ』

『……二人きりだったみたいだけど、そうなの?』


男が腕を掴んで揺さぶった。魂が淀んだ色をしていて感情的になっているようだ。


『なんで!? 俺の気持ちを知っているのに男と二人で出掛けるなんて……! 気付いてないだろうけど、アイツはルーちゃんのことを好きだと思う』

『……え』

『そんな男と二人で出掛けて欲しくないんだ! アイツだけは本当に君を連れ去りそうで怖い。いつも薄気味悪い目をして君のことを見ている』

『……そんな…』

『ごめん、感情的になりすぎたね』


珍しく声を荒げた男に怯えているようだった。それに気付いて直ぐに謝っているが、ルウの表情は暗い。


『何か食べに行こうか? バイト代入ったから奢るよ!』

『ごめん……今日は……』

『……そっか。駅まで送ってもいい?』


慌てた様子であれこれと話しかけているが、ルウは相槌を打つだけで笑顔はない。

気まずさは解消されることなく、二人は『また明日』と言って別れた。


振り返り男の背中を見送っているが感情が読めない。何か考え込んでいるようだ。

まるでその場から動けなくなったように立ち止まっている。


そのまま日が沈み、宵の口になった頃に俺は現し世へと向かった。

さすがにもう同じ場所に留まり続けてはいないようで、ルウの行方を探すのに少し時間を要した。花屋にも家の周辺にも姿はなく、橋の上で空を仰いでいるのを見つけた。

暗闇に解けてしまいそうな危うい雰囲気で、やや大声で名前を呼んでしまう。


「ルウ!」

「え? ロカくん? こんなところで会うなんてびっくり」


こちらに振り返った表情はいつもと変わらないものだったので、俺は首を捻る。


「昨日はありがとうね。案内するはずが私のほうが楽しんじゃった」

「俺も楽しかった」

「そっか、それなら良かった」


時刻を確認したルウは「もうこんな時間?」と呟く。


「ぼーっとしてたら駄目だね、帰らないと!」

「……帰りたくないのか?」


そう言っているように聞こえた。眉尻が下がり、否定はしないので勘違いではないようだ。


「何があったんだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る