21 Side 王

「短い間でもお世話した子が旅立っていくのは淋しいんだよねぇ」


ちびちびと酒を飲みながらクドウは目に涙を浮かべていた。これは完全に酔っている。

酔い潰れてもここはクドウの邸なので問題はない。頃合いを見て帰るつもりだ。


「まあ、でもさ、みんな僕みたいな奴が側にいるなんておこがましいくらい綺麗な魂だから……それでいいんだよ」

「……」

「こういう仕事してるとさ、人の醜い部分をよく見ているから綺麗でいるのは難しいよねぇ。だから惹かれちゃうのかな」

「……そうだな」


ルウの笑顔を思い出すと穏やか気持ちと届かぬ辛さに襲われる。心ここにあらずで話に相槌を打っていたのだが、いつの間にやらクドウは寝てしまったらしい。

こうなってしまえば朝まで起きないだろう。


「……帰るか」


部屋の中を見渡せば隣の部屋へと続く扉が開いたままだった。代々集めたという書物が詰まった書庫で、何度か珍しいものを借りたことがある。

クドウが新たに集めてきた本が増えたのか足の踏み場もないほど積み上げられている。

手近にあったものを手に取ると、どこで見つけてきたのか?という奇妙な題名だ。


「こっちは禁忌を記した本か」


ずっしりとした重さのある本をパラパラと捲ってみれば、気になる記載を見つけた。


「これは……」


そんな都合の良い話があるはずがないと何度も読み返したが、過去にあった事実なのだという。


……これを使えば、ルウを手に入れることが出来るかもしれない。


ごくりと喉が鳴る。

冥界の王ともあろう者が禁忌を犯すわけにはいかない。しかし、実現出来るだけの力が俺にはある。


本を閉じても何度も読み返したら方法を覚えてしまった。


“人の醜い部分をよく見ているから綺麗でいるのは難しいよねぇ”と目の前で酔いつぶれている男が言った。


そうだな、俺はもうとっくに醜いものに飲み込まれた存在だ。今さら何をしようと綺麗にはなれないんだよ。

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