20 Side 王
目の前でルウが親しげに男と話をしている。俺には分からない話題を楽しそうに……。
視界が黒く歪むようだ。
理解し難いと思っていた罪人たちの魂を思い出す。嫉妬に狂い、取り返しのつかないことをしてしまった人間は少なくなかった。
それを裁く立場の者が同調してはならないのに、もやもやと黒い感情が膨らんでいく。
「どうかしたの? たくさん歩いて具合悪くなったのかな」
心配そうに声を掛けられて視界が晴れた。彼女は本当に綺麗な魂をしていて、自分とは大違いだ。
「……そろそろ帰る」
「一人で大丈夫ですか?」
「ああ」
名残惜しいがこのまま留まるのはまずい。今ならまだなんとか手を引ける、引かなくてはいけない。
そんな俺の苦悩をしらないルウは穏やかに微笑んだ。
「また今度、続きを案内しますね」
とても残酷な言葉だと思うのに、また会いたくなってしまう……。
握りしめた拳から血が滲むけれど、この手を彼女に伸ばすことは許されない。
門を潜り抜けると、待ち構えていたようにクドウが立っていた。
「あれ? 誰がやって来るのかと思ったらロカ様かぁ」
「どうしてここにいる」
「たまたまだよ。時々こうしてどんな魂がやって来るのか観察してる。何の記憶も持たない子がいたら助けてあげたいしね」
「……」
「あはっ、理解できないって顔だね」
付き合いは長いが、こいつの物好きは理解が出来ない。
「それよりさ、ロカ様が現し世に行くなんて初めてじゃない? どうしたのさ?」
「別に。あちらの世界を見てみたいと思っただけだ」
「ふーん。いいなー、僕も行ってみたい」
クドウにはその力はない。
それは本人も理解しているのでつまらなさそうに唇を尖らせた。
「ねぇ、久しぶりに酒でも飲まない? 現し世がどんなところか話を聞かせてよ」
「俺が話すとでも?」
「あはっ、そうだよねー、ロカ様はお喋り得意じゃないもんなぁ。あの時だってさぁ」
何を思い出したのかケラケラと笑いだし、「なんでもいいから飲みに行こう」と誘われる。珍しいことだが今日は誘いに乗ってもいいだろう。
気を紛らわせなければ、ルウとあの男のことを思い出してしまう。
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