19 Side 王

彼女は誰にでも分け隔てのない人間なので警戒心というものが薄かった。何かを思いついたように口を開く。


「もしかして留学生の人ですか? 何人か来るって噂は聞いていたけどこんなに綺麗な人見たことないので驚きました」


よく分からないが勝手に解釈してくれたようだ。それを否定せずに頷いておく。


「綺麗な琥珀の瞳ですね」


ふふっと口元を押さえて控えめに笑う彼女に釘付けになる。

一方的に見つめているわけではない、この容姿を見つめ褒めてくれるなんて嘘みたいだ。少しばかり此方うつしよの人間に似せて来たが、瞳はそのままだ。


「分からないことがあれば聞いてくださいね。私の名前は杉野瑠璃花です」

「ルリカ」

「そう。言いづらくはないかな? みんなはルーとかルーちゃんって呼ぶので、そう呼んでくれてもいいですよ」


「ルウ」口に出してみる。

「はい」と笑い返される。なんて心地よい……。

この時間をもう少し噛み締めたい。


「良かったら案内をしてくれないか?」

「学校探検ですね! いいですよ、特別にオススメの場所をいっぱい教えましょう」


親切心を利用する。

こちらの内心など知らず、時間を掛けて“大学”という場所を案内してくれた。普段の様子が目に浮かぶようだった。


思っていたよりも華奢な体をしていたこと、夕方の空が好きだということ、のんびりと歩くことが好きなこと、初めて触れる情報に心が躍った。


しかし、俺とルウは別の世界を生きる者だ。現し世の人間を手に入れることはできない。

知れば知るほど愛おしいのにその存在は遠い。

夢のような時間が終わりを迎える頃、その男は現れた。

改めて見ても濁りの少ない魂をしている。


「ルーちゃん、その人は誰?」


いつかの“君のことを愛しているんだ”という忌まわしい言葉が重なって聞こえた。

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