18 Side 王
彼女の住む街には蝉という生き物がいるらしい。
一斉に泣き出すその音に耳を塞ぎたくなる。
「現し世に来るのは初めてだな」
限られた者だけか行き来することが出来るとは聞いていたが、門の向こうはこうなっていたのか。見慣れぬ生き物や建物が興味深い。
時々、現し世で迷い子になった魂を見かけ声を掛けた。行き先を教えてやる。
向こうに戻ればまた逢うことになるだろう。
街の様子を満足するまで見て回った後、目的の場所へと向かった。
現し世の若者たちが学ぶ場らしい。帰路につこうとする者達の流れに逆らいながら歩を進める。
この辺りの風景はあの鏡によって見せられていたので覚えがある。
膨大な書物が並ぶ建物の中に彼女の姿はあった。
伏し目がちに本を読んでいる姿は絵画を見ているようだった。聖域を犯すような緊張感があり、そろそろと近寄っていく。
こちらに気付く様子もなく夢中で物語に没頭しているらしい。時々頬が緩んでいた。
「こんにちは」
そう声をかければ、初めてこちらを向いた。
不思議そうに首を傾げている。手を伸ばせば触れることが出来る場所までやって来たんだ。
ただ視線を向けられただけなのに血が沸き立つような感覚だった。
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