16 side 王

稀に何の記憶も持たずに冥界へとやって来る者がいる。


「……」


まだ十にも満たないであろう少年が不安そうに此方を見ている。玉座に座る見知らぬ男、自分を囲むように並び立つ兵に怯えているらしい。


「質問しても何にも言わないんだよ」


軽薄な態度を隠そうともせず、クドウが「困ったねぇ」と笑う。ここまで案内させたことでいつもの悪い癖が出たらしい。

少年に「お兄さんに付いていく?」と誘いを掛けている。


「また連れていく気か? ……物好きな」

「これは趣味みたいなものだよねぇ。ちゃんと時期が来たらバイバイするからさ、暫く預かってもいいでしょう?」

「好きにしろ」


「やった」と楽しそうにしているが、何が面白いのか分からない。

クドウは記憶を持たない者、特に若い魂の面倒を見るのが好きだ。

次の行き先が決まるまでの間だけ邸宅へと連れて帰る。悪いようには扱っていない様子なので任せている。


「私はあの男が信用なりません。王の側には相応しくない」


後ろに控えていたカドが進言してくる。

先代の頃から補佐として仕えているが、クドウのような軟派な男とは反りが合わないらしい。


「……留意しておく」


そう答えればカドが満足げに頷いた。

その後は地獄行きの魂達を承認し続けた。反省の見られない者、罪を誤魔化そうとする者、情状酌量の余地がないのは処理しやすい。



本日分の仕事を終え、屋敷の執務室に戻ると姿見が紫色に光っていた。暗闇に浮かぶその姿は怪しく見える。


「……またか」


先々代が収集した品の一つと聞いているが、どうやら現し世の様子を覗くことが出来るらしい。

独りでに作動する我楽多で面白いものでは無かったのだが……。


近頃では同じ少女の様子ばかり映っている。現し世の学生服を身に纏い、濡れ烏のような髪をしていた。白い肌は髪の美しさに合っており儚げな印象を与えた。


彼女は地獄に行くことはないだろう。

……これは搾取される側の人間だ。











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