12

「何の話をしているんだ?」

「誤魔化そうとしても無駄です」


観察しても顔色は全く変わらない。

動悸の激しさが相手に伝わっていないことを祈る。


「このことをみんなに話します」

「そんな妄想が信じられるとでも?」

「王は……王なら、私を信じてくれます」


本当にそうかな?と不安がない訳ではないけど、王だけは信じてくれると思う。

カドは舌打ちをした。


「あのうつけ者なら真に受けるかもしれない。おい、娘」


威圧感のある低い声が囁く。


「命だけは助けてやろうと思ったが、お前には消えてもらう」

「……ッ」


殺意のある眼差しを向けられて身が震えた。助けを呼ぶために叫ぶよりも早く口を押さえられる。


「まさかあの話を聞かれているとはな。何も知らないお前に教えてやろう。魂は冥界を生きるが、その魂さえ消えたらどうなると思う?二度と蘇らない無になるのだ」


口に布を詰められ、見かけよりも強い力の腕に抑えつけられる。体を捩って抵抗しても無駄だった。忍ばせていたらしい小刀が喉に触れそうになる所で止められる。


「稚拙な脚本シナリオだが、王との婚姻を悲観して死んだなんて有り得る話だろう? 王に生かされるだけの何も持たぬ邪魔者なのだから。さあ、退場してもらおうか」


このまま自害を装って死んでしまえ!と言われるがそんなことは受け入れられない。


「おい! 抵抗しても無駄だ!」


外に異変を知らせたいのに届かない。

このままでは私は消されてしまう。もう一度、ロカに会いたいのに……!


されるがままで、涙を溢れさせることしか出来ないなんて無力にも程がある。

小刀を持つ手が振り上げられるのがぼやけて見えた。ーー皮膚を切り裂くような音が響き、血飛沫が飛ぶ。


「……あれ?」


血の匂いが鼻を突くのに、どこにも痛みを感じない。覆いかぶさるようにして倒れているのは誰?

「チッ」という舌打ちと共に倒れていた男は蹴飛ばされた。意識が無いようでぴくりとも動かない。その顔は私に殺意を向けていたはずのカドで……


「済まない」


第三者に目を向ければ、血濡れた剣を持って立っていたのはロカだった。


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