11

夕刻には王が戻ると知らせが入った日、突然乗り込んできた年老いた男はカドと名乗った。

その顔には見覚えがあり、聞けばレーラの父だと言う。顔立ちは娘とはあまり似ていないようで、鋭い眼光にギロリと睨まれた。


「……もう一度お聞きしても?」絞り出すように何とか喋った。

先ほど伝えられた事が聞き間違えであって欲しかった。


「何者かによって王と娘は嵌められ、契を交わした。娘は子を宿したかもしれぬ。このまま婚儀が行われるなどあってはならないこと。たとえ不本意でも王が娘を傷付けたことは事実、その責任は取ってもらいたい」


レーラは王に同行していたようで、二人は何者かによる策略で一夜を共にしたという。その情報を聞きつけた目の前の男は責任を求めてここにやって来たということらしい。


「……」


そっと深呼吸をする。

王のあの手が私以外に触れることを想像すると胸が苦しい。

でも、その前に確かめておくことがある。


部屋の外ではヨウカや兵が待機しているが、話の内容までは聞こえていないと思う。俯いていた顔を上げてカドの目をじっと見つめる。


「その何者かとは、ご自身のことではないのですか?」

「……はっ、おかしな娘は言うこともおかしい」


鼻で笑われるが、先日盗み聞きしてしまった内容と状況は一致しているように思う。

そう考えれば、あの時の娘の声もレーラの喋り方に似ていたかもしれない。証拠になるものはないけれど…


「あなたがレーラさんと話していたのを聞きました。私を良く思っていないあなた達は王を嵌めたのでしょう?」


今は虚勢を張ってみるしかない。

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