10

自室に戻った私の目の前を慌ただしくヨウカが動き回る。


「湯浴みの準備は整っています。念のため医師を呼びますね。あと、食事を用意してくるので食べたいものはありますか?」

「……うーん、あんまり食欲が……」

「では、温かい飲み物と軽く摘まめるものを用意しておきましょう」

「あっ、待って……」


部屋から出ていこうとするヨウカを引き留めてしまう。一人になるのが今は怖い。


「外にはロカ様が信頼する兵を配置していますし、ケルベロスが側にいるから大丈夫ですよ。今夜はお側にいますから、そのための準備をしてきますね」

「……うん」


いつもはロカだけに懐いているケルベロスが膝の上にやってきた。見た目は厳ついけどすり寄られると可愛く見える。そっと頭を撫でてみるが嫌がられなかった。


「見つけてくれてありがとう」


ヨウカの話では、女中に騙されて足止めを食らっているうちに私が行方不明になったらしい。いつまで経っても帰ってこないので探していると、あの女中の不穏な動きに気付いた。

まだここで働きだして日の浅い娘で、何者かに送り込まれた可能性が高いそうだ。王がいないので今は見張りの元で軟禁されているらしい。


「受け入れることが出来ないか……」


やり方は違えど、その意見を無視することは出来ない。王が帰ってきたら相談してみよう。


すぐに受け入れて貰えなくても、この婚儀が祝福されるものにしたい。ロカの横に並ぶのにふさわしい女性ひとになりたい。すぐ諦めるのでは駄目だ。


「……がんばるっ」



ーーしかし、そんな私の密かな決意はすぐにへし折られてしまう。


王がまだ帰ってきていないのに、この婚約を破棄しろとレーラの父親が乗り込んできたのだ。




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