9
どれくらい時間が経ったか分からないけど、すっかり夜が更けてしまった。
真っ暗な場所はあの日を思い出す。
ーー私は何も分からないまま、呼ばれている気がして歩き続けた。やがて光に包まれ、瞼を開けば玉座に座るロカが頬杖をつきながら見下ろしていた。
とても綺麗な人だと思ったし、目が離せなくなった。形の良い唇が動く。
「名を何と申す?」
威厳を感じる声だった。
「……」
槍や剣を持った兵が壁を背にずらりと並んでいることにそこで気付いた。ここは厳粛な場所らしく、緊張感が漂っている。
「……なまえ…?」
掠れた声で呟く。問われていることへの答えが思い浮かばない。
「記憶がないのだな」
「たぶん……?」
「ここは冥界、死後の世界だ。私の判断で行き先を決めることになる」
「死…後……」
自分自身のことを思い出そうとしても何も分からない。頭がぼんやりとするだけ……。
「案ずるな、悪いようにはしない」
そこからまた光に包まれて、気付けば王の屋敷で過ごしていた。
悪いようにはしないという言葉通り、王は優しくしてくれて不安も感じることがなく、穏やかな日々を過ごしていた。
どうして側に置いてくれたのか分からないけど、拾って貰ったことに後悔はない。
ほんの半年ほど前なのにあの時間が遠く感じる。花嫁に選ばれてから目まぐるしく変わってしまった。
「……ん?」
微かに人の声が聞こえた気がする。
ほとんど何も見えないので手探りで扉に近付き、力の限り扉を叩く。
「助けて!助けてください!」
ドンドンッ
「お願い、助けて……!」
ドンッ
『バウッ』
「……ケルベロス?」
『クォ~ンッ』
ドンッドンッ
「ケルベロス!!気付いて!!」
『ワンッワンッ』
バタバタと掛けてくる足音が聞こえる。
「ルウ様!いますか!?」
「ヨウカ!!」
気付いてくれたことに安堵するけど、鍵は持っていないようで扉は開かない。ケルベロスが体当たりしてもびくともしない。
「……離れてください。ぶっ壊します!」
勇ましい声が聞こえたと思ったら、バキッバキッと音を立てながら扉が少しずつ壊れ始める。
「お待たせしました」
斧を構えたヨウカが袖で汗を拭いながら笑った。
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