今日も講義レッスンをこなしていると、ヨウカではない女中がやって来た。ヨウカ以外の女中は腫れ物に触るように接してくるので珍しいことだと思う。


「え? 私にお客様ですか?」


伝えられたことは来客を知らせるもので、目を丸くする。知人もいない私に会いに来る人など覚えがない。


「えっと、ヨウカはどこに?」


ヨウカに確認を取りたい。勝手なことはしない!と口煩く言われているからだ。


「彼女は女中頭に呼ばれています」

「……うーん」


女中は時間を気にしているようでそわそわしていた。ヨウカがいないのであれば仕方がない。


「案内してください」


通されたのは客間ではあるが埃臭い部屋だった。

異変に気付く、中には誰もいない。


「お客様はどこに?……きゃっ!」


背中を押され、床に転がった。


振り返れば扉は既に閉まっており、外から鍵が締まる音が響いた。


「何を……!」

「あなたが邪魔なのよ」


冷たい声だ。騙されたんだ……!


「大声を出してもここに近づくものはいない。誰かに見つけてもらえるといいわね」

「こ、こんなことロカが許すと?」


声が震える。


「あの王には失望したわ。貴方のような女に誑かされるなんて」


失望……。


「ご存知ないようだけど、王は辺境で起きた事故のために出掛けたわ。数日は戻ってこないんじゃないかしら」

「そんな」

「たとえ私が処罰されても、貴方を受け入れることが出来ない人間は少なくない。己が可愛いならこの婚約は破棄することね」

「……」


最近こんなことばかりだ。

女中はいなくなったようで何も言わなくなったし、扉を叩いても何の反応も返ってこなかった。


部屋の中を見回しても扉を壊せるような物はないし、暗くなれば灯りもないようだ。窓からの脱出も高さを考えると難しそうだし、そもそも窓が開きそうにない。

窓枠や家具に埃が溜まっていて、随分と使われていない部屋のようだ。


「どうしよう、ロカ……」


段々と空が暗くなり始める。心細くなり王の名前を口にするが届くはずもない。

首元のチョーカーに触れながら蹲る。


「助けてよ」


ロカの側を離れることを考えるけど、こんなことをされても「それは嫌だ」と思っている自分に気付く。

あの優しく撫でてくれる手も、名前を呼んでくれる声も、綺麗な琥珀の瞳も、失ってしまうことを考えると怖い。


……だけど、私が側にいることは許さないとみなが言う。

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