5
「あれは何?」
薄紅色の丸いものが串刺しになっているお菓子のような物が気になった。人気があるようで行列が出来ている。
「一つ食べてみるか」
王は懐から出した小さな硝子玉と交換した。
「それがお金のようなもの?」
疑問を口に出して、ふと考える。
自分自身の記憶はないけれど、買い物をする時に支払いをしなくてはいけない等の知識は頭にあるらしい。
「そうだ。紙で出来たものもあるが、よく出回っているのはこれだ」
「綺麗」
見せて貰った玉は輝いていた。
購入したお菓子は揚げてあるようで、芳ばしく歯応えもあった。
美味しいものが食べられて喜んでいることが伝わったらしく「これも食べてみるといい」と日持ちしそうなお菓子を買ってくれたのでお土産にする。
最初は異形だと怖がってしまったけれど、歌唄いや占者がいたり、活気のある街並みに心が踊った。少しだけここの様子が知れて嬉しいと思う。
あっという間に時間は過ぎてしまったようで「帰る前に連れて行きたいところがある」と賑わいから離れた森へと向かった。
そして、獣道を抜けた先は壮観だった。
「わあ!」
波の穏やかな大きな湖があり、鏡のように空を映していることで天地の境が曖昧になる絶景が広がっている。
静寂に包まれているのもより神秘的で、王と二人だけしかいない世界のようだった。
「ヨウカに可愛くして貰ったの!」
思い出したようにストールを外す。
化粧を施して貰ったこともあってか、別人のような仕上がりだと思う。
結って貰った髪も見てほしくてくるりと回転して見せれば、目を見開いて固まった王の姿があった。
あれ? もしかして気に入らなかったのかな?
いつもなら何か言ってくれるのに。
続く沈黙に耐えられなくなり、ストールを被り直そうとする手を掴まれた。
「どうして隠す?」
「だって……」
全身を食い入るように見られていることに気付く。よく見ればほんのり頬が紅く染まり優しい目をしていた。
「天女のようで言葉を失ってしまった」
「てん……にょ…?」
天女とは何だったか考えていると、王は話し続けた。
「実際の天女に会ったことがあるが、比べ物にならないくらいお前は美しい。あまりの美しさに息の根が止まってしまうかと思ったくらいだ」
何も言わなかったのが嘘みたいに称賛されて、誰のことを話しているのかと分からなくなる。たじろぎながら呟く。
「……美しいのはロカです。私も心臓が止まるかと思いました」
初めて会った日のことを思い出す。
冥界に流れ着いた者は
「己の容姿に興味もないし、煩いことしかなかったが……お前が好ましく思ってくれるなら初めて良かったと思える」
笑みを溢したロカの唇が瞼に触れる。
「俺の前から消えないでくれ。あまりに美しいと天女のように帰っていきそうだ」
「私には帰る場所なんてないのに」
与えてくれたこの場所しか私は知らない。
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