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約束から3日後に王と出かけることになった。

ヨウカに髪を結って貰い、貰ったチョーカーも付けている。


「人目のある場所ではこのストールを被ってくださいね」

「せっかく可愛くしたのに?」


首を傾げると「見せて良いのはロカ様の前だけですよ」と微笑まれた。うーん? そういうものなのか。


「ここは冥界ですから、屋敷の中では見ることのない世界を知ることになります。それは綺麗なものだけではありません。くれぐれも!ロカ様の側から離れてはなりませんよ! 迷子にならないように!」

「……はい」


強い口調に圧倒されてしまう。

心配で仕方がないという表情に情けなくなる。ヨウカは親切だけど、それは仕事だから面倒を見てくれているだけで、私が王の花嫁でなければ心労も少なく済んでいたのかも……。

鬱々とした考えが浮かんでくる。


「ルウ様? 浮かない顔してますね。ロカ様の言うように疲れが溜まっているのでしょうか。色々言いましたけど、美味しいもの食べて楽しんできてくださいね」

「うん……」


気遣わしげな表情のヨウカに見送られ、私は外へと向かった。屋敷の外へと出る大きな門の前で待ち合わせることになっているけど、ここに来てからそこを抜けるのは初めてだ。少し緊張してしまう。


「クゥ~ン」


甘えた鳴き声が聞こえてくると思ったら、王がケルベロスを撫でていた。頭が3つあり、蛇のような尾を持つそれは見た目は怖いけれどよく懐いている。

ここのところ来賓の姿絵を飽きるほど見せられているけど、王よりも美しい人は見つけられなかった。

稀代の美丈夫と言われているらしく、何をしていても絵になる。


「髪の色、ちがう……」

「少し変装だ。今日は邪魔されたくないから人目を忍びたい」


逞しい腕が私の腰を抱く。密着しているのに更に耳打ちするように話しかけてくるから頬が熱くなる。

熱を誤魔化すように「どこに行くのですか?」と尋ねる。


「まずはぶらぶら歩いてみるか。気になるものや食べたいものがあれば言ってくれ」


連れて行かれたのはそう離れていない場所で、見渡す限り商店が並んでいるようだった。

店主や行き交う人々を見ると屋敷の中では見かけないような姿形をしていた。少し怖いと思ってしまう。


「人の形は保ってはいないが、意思の疎通などは問題がない。この辺りの治安は保障するから安心しろ」

「……危ない場所もある?」


ヨウカの“綺麗なものだけではない”という言葉が頭に過ぎる。


「ここに流れ着いたばかりの者は浄化が済んでいない。在るべき場所へ振り分けられる前の者もいる。あそこに赤い門が見えるだろう?」


高台のような場所にポツンと赤い門が見える。遙か先なのに確認できることから、かなりの大きさであることが分かる。


「あれは常世から冥界へと繋がる場所だ。お前もあそこから来た」

「……?」

「何も覚えていないだろうが、あそこから来たんだ」


どうして表情を曇らせているんだろう?

私は何も覚えていないけれど、王は把握しているらしいというのは薄々感じている。話してもらっても記憶がないのでしっくりくることはないだろうから聞かないでいる。







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