3

外が真っ暗になった頃、王は部屋に訪れた。湯浴みを終えて装飾品などは付けておらず、軽装になった姿は限られた者しか見ることはない。その視線は寝台の上で膝を抱えて微動だにしないルウだけを見つめている。


「あれはどうした?」

「ルウ様がぼんやりしているのはいつものことですが、昼の講義レッスンが終わってから様子がおかしいんです」

「……今夜はもう下がっていい」


ヨウカが出ていくと王は寝台の縁に腰を下ろした。


「疲れた顔をしているな」


頬を撫でられるけれど、いつものように目を合わせることが出来ない。昼間のことが頭の中を掠めてぎこちなくなってしまう。


「何かあったのか?」

「……少し、疲れただけです。慣れないことを詰め込んでいるので私には負担が大きいです。これくらいで疲れている私なんかが妃になるなんて無理なんじゃないかと」

「今日は随分と饒舌だな」


遮るように王は口を開いた。


「お前はその瞳を俺に向ければいい、その口からは俺を否定する言葉を溢してはならない。何も心配することはないと伝えたはずだが忘れたのか?」

「……」

「どうすれば安心できる? もっと深くまで愛せというならそうするが、お前には優しくしたい。覚悟が出来ないなら下手に煽るのはやめてくれ」


綺麗なはずの琥珀の瞳が暗く淀んでいる。

「やっと目を合わせてくれたな」と微笑むけど、張り詰めた空気を感じる。

こちらの緊張を察したらしい王は私を引き寄せ、腕の中におさめた。


「ここのところ無理をさせてすまない。真面目なお前は与えられた課題を怠けずにこなすだろう。その姿がいじらしくて愛おしいと思う」


砂糖水のように甘い声が耳元でする。

王から伝わる色気にクラクラしてくる。


「近いうちに時間を割くから、気晴らしに出掛けよう」

「……お出かけ?」


ここに来てから外出というものをしたことがない。衣食住は用意されているし、ここ以外に知り合いがいるわけでもなく、出かける用事もなかった。

今まで興味を持たなかったけど、外には何があるんだろう?


逢瀬デートというやつだ」

「……はじめて」


噂には聞いていた逢瀬を想像すれば心が踊った。口元が緩んでしまう。


「おしゃれする? 可愛くなって出掛けるってヨウカが言ってた」

「ああ、俺のために着飾ってくれ」

「王のため……」


お洒落がよく分からないからヨウカに相談しなくては。


「今は二人きりだ、名前を呼べ」


優しい手付きで髪を撫でられる。王は私の黒い髪が好きだというから、手入れをしながら伸ばしている。


「ロカ」


瞳を見つめて名前を呼ぶと微笑み返された。綺麗な琥珀に戻っていたから安堵する。

問題ふあんの解決はしていないけれど、今は初めての逢瀬のことで頭がいっぱいになっていた。

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