2
ヨウカに急かされるまま予定をこなし終えた私は暫しの自由時間を得た。
花嫁になるための修行を初めてから屋敷の中を歩き回れるようになったけれど、広くて迷子になってしまいそう。いつもは誰かが側に付いているけど、たまたまなのか1人きりで部屋まで戻ることになった。
同じような扉が並んでいて、どこかに階段へと続く扉があるはずなのによく分からない。鍵が掛かっている部屋もあれば客室のような部屋もあり、一つ一つ確かめていくしか無さそう。
警備も手薄なようで誰も見当たらない。
「ん?」
微かに話し声が聞こえてくる扉があった。誰かいるのなら帰路を教えてくれるかもしれないと叩いてみたが反応は返って来なかった。
そっと扉を開けて中を窺ってみる。
「全く王には呆れたものだな」
年老いた男の声だ。使っていない物が押し込まれた部屋らしく、ここからでは姿が見えないがなぜこんな場所に?
「今回のお戯れは度が過ぎていますわよね」
若い女の声もする。澄んでいて美しいけれど、気が立っている様子だ。
声は掛けないほうが良いかもしれないと思った時だった。
「ルウと言ったか? あんな得体のしれない娘を妃に選ぶなど許されてはならない」
名前が出てきたことに心臓が跳ねる。口元を押さえて飛び出しそうだった声は抑えた。
「何としてでも今回の婚儀は阻止させる。これは冥界のためであり、熱に浮かされた王の目を覚ます必要がある」
「分かっておりますわ」
「薬は用意させたから手筈が整ったら王の寝台へ行け。既成事実さえ作ってしまえば、あの娘も逃げ出して婚姻は流れるだろう。お前を妃を望む声は少なくないから、すぐに片付くはずだ。正しい者が正しい場所に収まらなくては」
「お任せください、お父様」
「事故を装って娘を消すことも出来るが、それは最終手段だ」
鳥肌が立つ。誰かも分からぬ人間から向けられる憎悪に体が震える。
私は王の花嫁に望まれていない……それは重大な問題であるはずだ。この冥界にどのような影響を与えるか分からないけれど、何も持たない得体のしれない娘が認められるはずがないのはそのとおりだ。なぜそんな簡単なことを考えなかったのか……。
その後は気配を消して逃げ出したが、どうやって部屋まで辿り着いたかは覚えていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます