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ヨウカに急かされるまま予定をこなし終えた私は暫しの自由時間を得た。

花嫁になるための修行を初めてから屋敷の中を歩き回れるようになったけれど、広くて迷子になってしまいそう。いつもは誰かが側に付いているけど、たまたまなのか1人きりで部屋まで戻ることになった。


同じような扉が並んでいて、どこかに階段へと続く扉があるはずなのによく分からない。鍵が掛かっている部屋もあれば客室のような部屋もあり、一つ一つ確かめていくしか無さそう。

警備も手薄なようで誰も見当たらない。


「ん?」


微かに話し声が聞こえてくる扉があった。誰かいるのなら帰路を教えてくれるかもしれないと叩いてみたが反応は返って来なかった。

そっと扉を開けて中を窺ってみる。


「全く王には呆れたものだな」


年老いた男の声だ。使っていない物が押し込まれた部屋らしく、ここからでは姿が見えないがなぜこんな場所に?


「今回のお戯れは度が過ぎていますわよね」


若い女の声もする。澄んでいて美しいけれど、気が立っている様子だ。

声は掛けないほうが良いかもしれないと思った時だった。


「ルウと言ったか? あんな得体のしれない娘を妃に選ぶなど許されてはならない」


名前が出てきたことに心臓が跳ねる。口元を押さえて飛び出しそうだった声は抑えた。


「何としてでも今回の婚儀は阻止させる。これは冥界のためであり、熱に浮かされた王の目を覚ます必要がある」

「分かっておりますわ」

「薬は用意させたから手筈が整ったら王の寝台へ行け。既成事実さえ作ってしまえば、あの娘も逃げ出して婚姻は流れるだろう。お前を妃を望む声は少なくないから、すぐに片付くはずだ。正しい者が正しい場所に収まらなくては」

「お任せください、お父様」

「事故を装って娘を消すことも出来るが、それは最終手段だ」


鳥肌が立つ。誰かも分からぬ人間から向けられる憎悪に体が震える。


私は王の花嫁に望まれていない……それは重大な問題であるはずだ。この冥界にどのような影響を与えるか分からないけれど、何も持たない得体のしれない娘が認められるはずがないのはそのとおりだ。なぜそんな簡単なことを考えなかったのか……。


その後は気配を消して逃げ出したが、どうやって部屋まで辿り着いたかは覚えていない。




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