第4話 リリアとの出会いと最初の衝突

村での生活が1週間ほど経過したある日、寛人は村の外れにある訓練場で休憩していた。

汗を拭きながら、彼は村の警備訓練に参加していたのだ。


「はぁ...この世界の戦い方も、だいぶ分かってきたかな」


寛人が呟いた瞬間、彼の鋭敏になった感覚が危険を察知した。


ビュンッ!


「危ない!」


寛人は咄嗟に身をかわした。

彼の頬をかすめるように、一本の矢が地面に突き刺さる。


(なんだ!? 敵襲か?)


寛人は緊張して周囲を見回した。


「おや、避けられるとはね」


涼しげな声が聞こえ、寛人が顔を上げると、一人の少女が立っていた。

金髪のロングヘア、エメラルドの瞳。凛々しい美少女だ。


「君は...?」


「私はリリア。この村の守護を任されているの」


リリアは弓を背負いながら、寛人に近づいてくる。

その歩き方には無駄がなく、明らかに戦闘経験の豊富さが窺える。


「ふーん、君が噂の"無敵の旅人"ってわけ?」


リリアの目は鋭く、寛人を値踏みするように見つめていた。


「まあ、そんなところかな」


寛人は照れくさそうに答える。

しかし、リリアの態度は冷たいままだ。


「ねえ、あなた本当に強いの?」


「え?まあ、多分...」


「じゃあ、私と勝負しない?」


リリアの挑戦的な態度に、寛人は戸惑う。

しかし、彼女の真剣な眼差しに、何か引き込まれるものを感じた。


(この子、本気で強さを確かめたいんだな...)


「いいよ。でも、手加減はしないからね」


「ふん、当然よ」


二人は向かい合って立つ。

周囲の空気が張り詰める。


「行くわよ!」


リリアの動きが鮮やか。

弓を構え、矢を放つ。


ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!


連続して放たれる矢。

その速度と精度は、明らかに人間の領域を超えていた。


しかし——


「おっと、危ないな」


寛人は、まるで踊るように全ての矢をかわす。

彼の動きは、人の目では追えないほどの速さだった。


「な...何?」


リリアの目が見開く。

彼女の矢は、今まで誰一人として避けきれたことがなかった。


「どうしたの?まだ続けるの?」


寛人の余裕そうな態度に、リリアの表情が歪む。


「くっ...こんなの、まぐれよ!」


リリアは再び矢を放つ。

今度は魔法の力を込めた矢だ。


シュオォン!


青い光を纏った矢が、音速を超える勢いで寛人に迫る。


「おや、今度は魔法か」


寛人は片手を前に出す。


パキン!


魔法の矢は、寛人の掌で粉々に砕け散った。


「う...嘘...」


リリアの声が震える。


「じゃあ、今度は僕の番だね」


寛人が一歩前に出る。

その瞬間——


ビュッ!


リリアの目には、寛人の姿が見えなくなった。


「え?どこ...きゃっ!」


気づいたら、後ろから抱きかかえられていた。


「どう?僕の速さ」


耳元でささやかれ、リリアの顔が真っ赤になる。


「は、離してよ!この変態!」


慌てて寛人から離れるリリア。

しかし、その表情には驚きと共に、何か期待のようなものも浮かんでいた。


「ごめんごめん。でも、これで勝負はついたかな?」


寛人が笑顔で言うと、リリアは顔を背けた。


「チッ...認めたくないけど、あなたの勝ちよ」


そう言いつつも、リリアの口元には小さな笑みが浮かんでいた。


「ねえ、あなた...本当に人間なの?」


リリアの問いに、寛人は一瞬言葉に詰まる。


「それが...実は俺、異世界から来たんだ」


「え?」


リリアの目が丸くなる。


「神様たちに召喚されてね。この世界を救うために」


寛人は簡単に自分の状況を説明した。


リリアは驚きの表情を浮かべながらも、真剣に聞き入っていた。


「そう...だから、あなたはそんなに強いのね」


「まあ、そういうことかな」


寛人が照れくさそうに頭を掻く。


「でも、この世界のことはまだよく分からないんだ。色々教えてくれないかな?」


リリアは少し考え込んだ後、小さく頷いた。


「いいわ。あなたの力が本物だってことは分かったし」

「でも、調子に乗らないでよ!」


「はいはい、わかってるって」


寛人が笑うと、リリアも釣られて笑みを浮かべる。


こうして、寛人とリリアの奇妙な友情が芽生え始めた。

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