夜景
@TR50
彼女【1話完結】
男はベランダから街を眺めていた。
20年ほど前、彼には付き合って8年になる彼女がいた。別に、「死ぬまで一緒」とか「世界の全てが無くなっても君だけ愛す」とかそんな関係でもなかった。ただ、お互い「このまま結婚するんだろう」という関係であった。一緒に遊園地にも行ったし、大喧嘩もした。2人の間にはごく普通の思い出が無数にあった。彼は大きな体でたくましく、彼女はちょっとドジで可愛らしい。
彼女が亡くなるまではこんな日がずっと続くのだろうと思っていたのだが。彼女が亡くなった後、彼は専ら自分の人生について考えるようになった。それは彼女を亡くしたことによる大きな絶望でも、今までの生活が戻ってこないという悲劇でもなく、ただ8年間連れ添った彼女を失ったという事実からである。
この8年夫婦も同然に付き合ってきた彼女。
もう1人の自分のような存在だった彼女。
なぜ亡くなったのが自分じゃなかったのだろう。いや、これは彼女が死んだことが許せない訳ではなく死んだのが自分だったとしてもなんら違和感は無かったという意味で。
今日も当然のように自分は生きていて、あそこに歩いてる人も、ほら、今自販機でお茶を買った人も間違いなく生きている。生きている人だけが生きていて、死んだ人は生きていない。自分の人生とはなんなのだろうか。きっと誰しもが明日生きている保証はないだろう。
男はベランダから街を眺めていた。
夜景 @TR50
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