アシンメトリーな少女の憂鬱

Melevy

第1話

私は高校生の佐菜(サナ)。学年は一年生で趣味はダンスや運動の元気な女子高生です。


ある日の放課後―。


「ねえねえ、佐菜~。ケホッ!写真撮ろー!!後ろ向いてそこ立って!ケホッケホッ!!」

マスク越しに咳混じりに指示してくるのは私の友達の一人、優菜。

例の感染症に罹患して後遺症がまだ残っている証拠だ。

私は言われるがままに机から立って後ろ向きでピースして立ってみた。

後ろ向きなので感染症対策でしている白の不織布マスクは写らない。


友達がスマホのシャッターを押す音が聞こえた。


「あれ~佐菜?なんかあんた左肩下がってな~い?ケホッ!」

唐突な一言。

「え?」


私は状況が飲み込めず半分困惑していた。

とりあえず撮ってもらった写真を見せてもらうことにした。


友達が撮ってもらった写真を見ると、セーラー服の襟や腰のミニスカがまるで急坂を横から見たかのように斜めっていた。それだけじゃなく、首も若干左に傾いており、体のくびれも左側だけあり、背中のラインが丁度S字を書いたように捻れていた。


「え、なにこれ」

「佐菜、あんた整体行って見てもらったら?」

「う~ん、でも今は別にいいかな、大丈夫でしょ」


***


帰宅後―。


私はマスクを外して、自宅のTVでニュースを見ていた。


「最近、若い女性を中心に脊柱側弯症せきちゅうそくわんしょうが増加しています。その多くが思春期の女性でありほとんどが特発性です。側弯症は背骨が横に曲がる病気で、肩の高さが違う、ウエストラインの非対称性、腕や足の長さが違う等の見た目上の変化も現れます。軽度の場合は経過観察、中等度はコルセットによる装具治療、重度まで進行すると手術の可能性もあります。」



「え、これ私の事...?」

少し不安になってきた。


***


学校で運動器検診の日が来た―。

クラスの友達同士で肩の高さや、お辞儀して肩甲骨の隆起や、背中をなぞって曲がっているかを確かめたり、バンザイして両腕が耳の高さまで上がるかどうかなどを確かめる。


友達が手で肩や背中を触ったりしてくるのが、伝わってきてくすぐったい―。

感触が伝わってきて、ソワソワする。


「佐菜ちゃん、めっちゃ肩下がってるね」

笑顔で言われた。

「やっぱりそうなのかなぁ...みんな真っ直ぐだけど私だけおかしいよね...」

私は下を向く。


「そんな事ないよ~、肩下がってるのも可愛いよ。私はどんな佐菜ちゃんも好きだよ」

「えぇ...なんかありがとう」

なぜだか嬉しかった。


***

友達がデートに誘ってきた。

何でも私の写真を撮りたいらしい。


「佐菜ちゃん、普通に歩いて」

友達がビデオモードのスマホを向けながら言ってくる。

私は言われるがままに歩道を歩いてみる。


側弯症のニュースや運動器検診の事もあって、これまで意識してなかったけど側弯症による不便や弊害を少しづつだけど感じるようになってきた。


歩くとき、左腕を振って歩いていること。左の足が右の足と比べて短く、いちいち左に傾いてから右側に揺り戻すようにぎこちない歩き方をしている事。などなど...。


それを友達はニヤニヤしながら撮ってくる。動画を見せてもらうと、自分が思った以上にぎこちない歩き方をしている事が分かって恥ずかしくなった。


思い出した―、この子は学校では大人しいけど実際は特殊性癖の持ち主で正真正銘の変態だと言うことを―。


「佐菜ちゃん、今度はこのベンチの右端に座って側弯してる方と逆に曲げて痛そうな表情してみて!あと、下がってる方の肩の腕を思いっきり上げてみて!!」


―やってみた。




うっ、痛い。

腰や脇腹の筋肉や背骨が悲鳴を上げている。


私は苦しさに若干顔をゆがめる。

「いいねいいね~その痛そうな顔可愛いよ!」


下がってる方の左腕も思うように上がらない。

どうしても関節の筋肉が引っかかる。


「いいよいいよ、最高だよ~」

「もうやめて~!!」


***


とりあえず病院に行ってみた。

予想はしてたが、やはり医師から告げられた病名は間違っていなかった。


「側弯症ですね、今は27°で軽度ですがまだ成長期が終わっておらず進行する可能性があるので装具治療ということになります」


その後、コルセットの型取りを行って、しばらくして白の硬い装具が出来上がった。

着けてみると結構きつい。しかも上からTシャツや制服を着ると少し盛り上がって見える。


装具を着けて生活してみたが、ずっと着けていると苦しくなり思わず外したくなる。

「はぁ、はぁ...、なんでこんなの着けなきゃいけないの...やだよこんなの」

涙が出てきた。


特に夏場の体育は地獄だった。

肩のところや触れている皮膚が尋常じゃないくらいに蒸れて痛い。

「でも、これで進行が抑えられるなら我慢しなきゃ...」


でも数週間経って限界がやってきた。

「良いや!もうコルセットなんて外しちゃえ!」

一日コルセットを外してみた。


暑苦しさや息苦しさから解放され、一時的には良いと思われたが...。


「うっ...」

放課後になって急に腰や肩が痛みに襲われた。

「いたた...」


私が苦しんでいる顔を見て誰かが声をかけてきた。

「大丈夫?私も側弯症だから気持ちがわかるよ、大変だよね」

「ありがとう」

「これからよろしくね」



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アシンメトリーな少女の憂鬱 Melevy @coffee_necone

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