第12話

 十田はベッドに入ったが、普段と寝床が違いすぎるのでかえって眠れない。何でもかんでも豪勢にすればいいものではないという事を目を閉じて思い知る。


 ベッドに入ってから何時間経ったのだろうか? 頭は冴え、意識がまどろみに没する気配は全く無い。


 あの女は一体何者なんだろう。これから始まる闘いは一体どんな強敵が出てくるのか。山中はどこの人間なのか。これから住む所はどうしよう。……とりとめのない考えが起きては消え、起きては消えて意識はなおも明敏さを保っている。


「寝られん」


 十田は独りごちると起き上がった。一度屋外に出て新鮮な空気でも吸ってこようという気になった。


 船内の回廊を歩いて行く。慣れた場所ではないが階段さえ見つけてしまえばひたすら上に上がっていけばいい。船内はほとんど揺れておらず、ひたすら静寂を保っていた。


 甲板に出てくると目の前に広がる大海原から陽光が伸びていた。


「ああ、そういえばそんな時間帯だったんだな」


 十田は自分が深夜に闘っていた事を思い出した。この太陽が昇る頃に自分が無一文の負け犬になっているのか深刻になっていた事がバカらしく感じる。


 十田は甲板の端にある手摺に両肘をつき、太陽昇るのを観察していた。柄にもないが、たまには雄大な景色を堪能するのもいいものだ。そう自分に言い聞かせながら。


 金色に染め上げられていく水面は荘厳で、大海に限らず、こういった遠大で美しい自然というものは、しばしば人に全てのものをバカらしく感じさせ、投げ出させるような誘惑を与える。


「あいつは今どうしてるのかな」


 十田は一人呟いた。あの空に消えていった友人を想い。どこかで平和に暮らしているはずの仲間を想い。そして、自分の元から姿を消した一人の女性を想い。

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