12 決着

 

(……今ので3発目) 

 

 シストは歯噛みしていた。フィンセントは休む間もなく、上級魔法を連発してくる。それを避けるために、シストは『風弾』を撃ちこんで、試合場を飛び回った。

 しかし、昨日の時点では自分が使えた魔法回数は3回。それが限界だった。その最後の1発を今、撃ちこんでしまったのだ。

 魔法決闘では、相手への攻撃は魔法のみが認められている。これで攻撃手段を失った。自分の負けだ。

 そのはずが、

 

(ん……!?)

 

 シストは目を瞬いた。余力があるのだ。魔力欠乏症特有の目眩が起こらない。

 まだ行ける……! 後はフィンセントの懐に入りさえすれば――!

 が、次の熱波が襲ってくる。もう避けるために魔力を消費する余裕はない。シストはハッとして、前に向き直る。そして、目を見開いた。

 フィンセントが放ったのは、中級魔法『火千』。

 なぜ!? ここにきて中級魔法を……?

 フィンセントの魔力は膨大なので、まだ余裕があるはずなのに。シストの瞳は、襲い来る火の波を映す。

 その時、耳に届いた声。

  

「シスト様……!」

 

 ジーナが不安そうに名前を呼ぶ。それが引き金となり、今朝の彼女の表情が思い浮かんで、

 

『――あなたが勝つと信じています』

 

 シストは生まれつき魔力が少なかった。だから、周りに期待されることもなく生きてきた。

 初めてだった。

 自分に「勝てる」と期待してくれた人は。


 だから、 

 そう言ってくれた少女の前で無残な姿を見せたら――

 かっこ悪すぎるだろうが……!


 フィンセントが放った火の波に、真正面からつっこむ。直撃の直前で床を蹴り上げ、跳躍した。

 掌を向ける先に、フィンセントの姿。彼は驚いたように目を見開く。その顔を捉えて、シストは残りの魔力を解き放った。

 風属性――中級魔法『暴風』。

 勢いよく風が突き抜ける。フィンセントの体を床に叩きつけた。

 シストは着地を決めて、肩で息をつく。フィンセントを油断なく見据えていると。

 フィンセントは床に手をつき立ち上がろうとしている。しかし、目眩を起こしているのか、ふらついた。再度、床に突撃する。

  

「勝者――シスト・フェリンガ!!」

 

 教師が高らかに叫ぶ。

 しんと辺りは静まり返った。観客は声をなくしていた。予想外の結果に終わったからだろう。

 誰もが唖然として立ち尽くす中――もっとも目を丸くしていたのは、シスト本人だった。

 

(……この魔法……初めて使った)

 

 中級魔法の起動に成功したのは、生まれて初めてだったのである。

 

 

 +

 

 ジーナは息を飲んだ。口元を抑えて、眼前の光景に見入る。

 

(よかった……シスト様……) 

 

 フィンセントの魔法にはどれも殺気がこめられていた。だから、試合の間、シストの身に何かあったらと思うと、ジーナは気が気ではなかった。

 

 と、その時。 

 

「この決闘は無効だ!」

 

 フィンセントが立ち上がり、喚き始める。

 

「私がこんな落ちこぼれに負けるわけがない! そうだ、こいつが何か不正を働いたにちがいない!」

「……やめなさい、フェリンガくん」

 

 冷静に諭したのは立ち会いをしていた教師だ。この学校では、生徒の身分に関わりなく教師が指導を行うという決まりになっている。

 そのため、第一王子であるフィンセントの行いも堂々と咎めている。

 

「これだけの立ち会い人がいる中で、不正を働くことは不可能だ。君の負けだ」

「そんな……なぜ、私が……! この私が、お前なんかに……!」

「遺跡の調査、気をつけて行ってくれよ」

 

 しれっと返してから、シストは背を向ける。試合場の階段を降りて、ジーナの元にやって来た。

 

「見てたか? ジーナ! 俺が勝った」 

「はい」

 

 その嬉しそうな表情に、ジーナの胸は詰まる。自然と口元がほころんでいた。

 

「おめでとうございます、シスト様」

 

 その笑顔を目に映し、シストは固まる。わずかに赤くなって、顔を逸らした。

  

「ジーナのおかげだ」

「そんな、私は何も……」 

 

 ジーナが告げようとした、その時。

 

「なんだと……?」

 

 試合場の上から、愕然とした声。フィンセントが驚いた様子で、ジーナのことを見ていた。

 

「その女……ジーナというのか……?」

 

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