第8話 独占欲が止まらない!②

 カレーを頬張りながらいつきは考える。

 今日ここまで、どれだけ周囲に圭斗との仲の良さを見せつけることができたか。

 そんなことを意識するのにはとある理由があった。


「ちょっと水取ってくるね!」


 立ち上がりウォーターサーバーに向かういつき。

 ゆっくりと歩き視線だけを泳がせる。

 広い食堂の中、隅に位置するカウンター席に標的は座っていた。


 真っ黒なおかっぱ頭に丸ブチの眼鏡。

 華奢で小柄な体格には不釣り合いな大きな胸をテーブルに押し付け、黙々と本を読んでいる。

 少女の名は萩野はぎの香澄、いつき達と同じ学年の冴えない生徒だ。


「どしたの、何見てるの?」


 圭斗に背後から声を掛けられ、いつきはビクリと身を震わせる。


「いや、ちょっと考え事してて……」

「そっか」


 圭斗はコップに水を注ぎ、自分の席へと戻っていく。

 いおりも後を追うように席へと戻る。


「考え事、なぁ」


 含みのある口ぶりに、いつきの胸がかすかにざわつく。


「圭くんも何か悩んでるの?」

「いや、実は最近ちょっと気になってる子がいてさ」


 予想以上に直球的な言葉を浴びて、いつきの動きがピタリと止まる。


「そいついっつも一人でいてさ」


 少ない情報ながらもその人物が香澄であるといつきには容易に想像がついた。


「へ、へぇ……」

「なんか見てると昔のいつきを思い出してさ。でも話したことないからどうやって声掛けたらいいか分からなくて」


 危惧していた事象がついに起きた、といつきは微かに眉を顰めた。

 しかしそれを悟られまいと少しうつむく。

 あくまで平穏を装い、余裕のある笑みで口を開く。


「私が声掛けてみようか?」


 先手を打っての接触。そして牽制。

 圭斗から香澄を遠ざけようと画策するいつき。


「えっ、いいの?」


 予想通りの反応にいつきは自然と悪い笑みをこぼす。


「いいよいいよ、圭くんの頼みなんだから! じゃあ、さっそく行ってくるね!」

「行くって、どこに?」

「そりゃあ……あっ……」


 口走りそうになった名前をいつきは済んでのところで噛み殺す。

 まだ圭斗の口から名前を聞いてもいないのに香澄の所へ向かうのは不自然極まりない。


「そういえばまだ誰が気になってるのか聞いてなかったね!」


 強引な切り返し。

 しかし圭斗はそれに気づいていないようで、いつきは安堵のため息をつく。


「いつき、オギノさんって知ってる?」

「オギ……ノ?」


 聞き馴染みのない名前にいつきは長考する。

 当然ながらオギノなどという人物はクラスにいない。


「ほら、あの小柄で眼鏡掛けてる」

「……それ、ハギノさんじゃないの?」

「えっ?」

「えっ?」


 まるで示し合わせたかのように、二人の間に沈黙が流れた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 お読みいただきありがとうございますm(₋ ₋)m

 施策は失敗でした!

 たぶん今日はランキング下がります;;

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彼女はヤンデレを堪えている たしろ @moumaicult

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