第7話 独占欲が止まらない!①
午前の授業を終え、圭斗はそそくさとシャワーを浴びた。
「大丈夫だよな? うん、臭くない」
自分に言い聞かせるように何度もつぶやきながら、圭斗はシャツのボタンを留める。
着替え終えて清々しい表情でシャワー室を後にすると、入口の前にいつきがいた。
「圭くん、ご飯まだだよね?」
「えっ? ああ」
「それなら今からご飯だよね? 早く食堂に行こ!」
いつきは圭斗の手を引いて、嬉々として廊下を駆ける。
自然と集まる周囲の視線に圭斗はうつむき顔を隠した。
恥ずかしい。が、いつきが明るくなってくれたことには嬉しさもある。
「いつき、あのさ……」
「ん?」
振り向きざまに見せられた笑顔があまりに眩しく、圭斗の言葉はそこで止まった。
「今日なに食べようかなぁ。圭くんはもう決めてる?」
「うーん、カレーでいいかな」
「またー? たまには他のものも食べようよ!」
何気ないやり取りをしながら歩いていると、突然二人の行く道を塞ぐように一人の青年が現れた。
「あっ、あの、村雲さん!」
緊張した面持ちの青年。
あまり面識のない者に名前を呼ばれたいつきはきょとんとした顔で首を傾げる。
「今からちょっ……」
「ごめん、今からお昼食べるんだ。また後でね!」
要件を伝える隙も与えずに、圭斗との昼食へ向かういつき。
横切るいつきを追いかける青年の手は震えている。
圭斗は心の中でご愁傷様とつぶやいた。
「最近多いんだよね、ああいうの」
「そりゃあ可愛いもんな、お前」
「そう思ってるなら告白してくれてもいいんだよ?」
「いや……」
あまりに大胆ないつきの発言に圭斗は言葉を詰まらせる。
確かにいつきのことは好きだ。が、それが果たして恋愛感情なのか? 自分もいつきもラブとライクを履き違えているのではないか。と圭斗は思い悩んでいた。
「ま、私はいつまででも待ってるけどね」
そう言って微笑むいつきを圭斗は直視できなかった。
◇
食堂に着いた二人はカレーの乗ったトレーを持って席についた。
「結局おまえもカレーかよ」
「えへへ」
いつきははにかみながらカレーを頬張る。
数口食べただけで汚れる口元。
「おい、口の横に米粒ついてるぞ」
「え?」
いつきは左手で口元を触るが、指は米粒の少し横を通り過ぎる。
「ったく、しょうがないな」
圭斗は身を乗り出して米粒を取る。
食べてしまおうと手を引こうとした時、ふと一つの疑問が脳裏をよぎる。
はたしてこれは間接キスになるのか、と。
「ありがと!」
悩んでいる隙に圭斗の指先をいつきが咥え、舌先で米粒をさらっていった。
いらぬ葛藤が消えたことに安堵する圭斗。しかしすぐにまた新たな葛藤が湧き出した。
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