第6話 ゆうべはお楽しみでしたね!③
車庫に着いた圭斗は仰天した。
「美月さん、また車変えたの?」
圭斗の目に映るのは、流線型の美しい真っ赤なスーパーカー。
何食わぬ顔で乗り込む美月。
「どう? 超イケてるでしょ?」
キーを回すと共にとどろくエンジンの重低音。
美月に「乗りなさい」と言われ、圭斗は犬に追われる羊のように足早に後部座席へ乗り込む。
「いやぁ、なんかすみません……わざわざ車出させちゃって」
「いいっていいって、どうせあの子が変なことしだしたんでしょ?」
否定はできずに圭斗は愛想笑いを浮かべる。
「でもね、本当にダメなことしそうになったら圭斗くんがちゃんと止めてあげてね」
「は、はい!」
「アタシもまだ若いんだから、初孫はおいおいでいいわよ」
「はい! って、え? 孫?」
予想だにしなかったワードを耳にして圭斗は滑稽なほど焦り散らかす。
その様子を見て美月がケタケタ笑っていると、圭斗の席の隣にいつきが来た。
「ごめん、お待たせ!」
「お待たせじゃないわよ、シートベルト付けた?」
二人がコクリとうなづくのをバックミラーで確認し、美月はアクセルを踏み込む。
「じゃあ、ママが運転してくかてる間に私たちは宿題やっちゃおうか」
「誰かさんのせいで宿じゃなくて車でやってるけどな」
茶化されたいつきは顔を赤くしながらカバンから教科書を取り出す。
たったそれだけの動作でも肩が触れ合うほどの距離感。
美月の車は存外狭い造りになっていた。
窮屈な中、黙々と勉強に打ち込む二人。
しかしいつきにはどうしても気になる事があるようで、圭斗の顔を横目で見ている。
「ん、どうしたいつき?」
問われたいつきは少し恥ずかしそうにつぶやく。
「今日の圭くん、ちょっと匂うかも」
いつきの指摘に圭斗はショックを受ける。
思春期にはあまりにも刺さる言葉。
「そういえば昨日、風呂入るの忘れてたな」
「そう……だね……」
いつきは圭斗の首筋に鼻を当てて匂いを確かめる。
息は次第に荒くなり、むず痒さを感じる圭斗。
「いや、そんなガッツリ確認しなくても……」
圭斗の静止が聞こえていないのか、いつきはより深く顔を押し付ける。
その様子を見兼ねた美月が、唐突にブレーキを踏んだ。
「ひゃっ!」
慣性に引かれてバランスを崩すいつき。
振り向いた美月の冷たい視線に、あわあわと口元を震わせる。
「違うのママ! これはちょっといつもと匂いが違うなって思って、気になって……」
「アタシの車で乳繰り合うな!」
「ひゃい!」
叱られたいつきは目を潤ませて縮こまり、しめやかに宿題を完遂して圭斗に写させた。
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