第5話 ゆうべはお楽しみでしたね!②
部屋に入って来たのはいつきに瓜二つな、しかしながらやや肉付きの良い黒髪ロングの美女だった。
村雲美月33歳、いつきの母である。
急いで身なりを整える圭斗を尻目に、いつきは美月に食いかかる。
「ママ、勝手に入ってこないでよ!」
詰め寄るいつきの額を指で弾き、美月は圭斗の耳元でささやく。
「圭斗くん、ちゃんとゴムはしたの?」
「えっ! ちょっ、それは……」
圭斗はチラリといつきの方を見る。
が、当のいつきは頭に手を当て目を潤ませているばかり。
「いつき、どうなんだよ? ちゃんと付けてたのか?」
「付けてたって、何を?」
「嘘だろ……そこまで無知なのか?!」
慌てふためく圭斗を見て、美月はクスリと笑う。
「フフッ、冗談よ。いつきにはそんな度胸無いもん、ね?」
美月に煽られるも、いつきは何のことかと首を傾げる。
ようやく何事も無かったと理解した圭斗はホッと胸を撫で下ろした。
「さあ、冷める前にご飯食べちゃいなさい」
颯爽と部屋を後にする美月。
後を追うように二人も部屋を出て階段を降りる。
リビングに着くとテーブルにはハムエッグとトーストが三組、ナイフとフォークを添えて並べられていた。
「えー、またハムエッグ?」
不平を漏らすいつきを尻目に、美月はナイフとフォークを手に取る。
「文句言うなら自分で作りなさい!」
至極真っ当な叱りを受け、いつきは渋々トーストをかじる。
そんな様子を傍らに圭斗も朝食に手を付けた。
「ところでアンタたち、テーブルに広げてたアレ、大丈夫なの?」
美月の不意な一言に、圭斗はトーストを喉に詰まらせる。
不覚にも忘れていた、いつきの家に来た理由を。
「おい、いつき、俺たち宿題終わってないぞ!」
その一言にいつきも持っていたフォークを手から滑らせる。
学校までは電車で五駅。
時間帯を考えるれば、とても教科書を開けるスペースがあるとは思えない。
「どどどど、どうしよう? 現文一時間目だよ?」
「やっべぇ、もうすぐ出ないと学校間に合わないし……」
二人がわちゃわちゃと盛り上がっていると、美月が車のカギをテーブルに置く。
「しょうがないわね。さっさと準備しな!」
ジャケットをパサリと羽織るその姿は、二人にとってさながらヒーローのようにすら映った。
圭斗は二つ返事でカバンを準備し、美月の後にぴったりと付いて玄関に向かう。
「いつき、早くしないと置いていくわよ?」
「待ってよママ!」
自室にこもってバタバタと準備をするいつき。
ため息をつきながらも美月の表情はどこか嬉しそうだった。
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