第4話 ゆうべはお楽しみでしたね!①
鼻をくすぐる焼けたパンの匂い。
目を覚ました圭斗はドレッサーで自身の胸元を見る。
一面をびっしりと埋め尽くすキスマーク。
「やっべぇな……」
それは全て昨晩いつきに付けられたもの。
結局圭斗は帰れず終いで、いつきの家に泊まることになった。
「あれ、いつきー?」
圭斗が眠りにつく前はベッドにいたはずのいつきが消えている。
部屋の中を見渡してみると、部屋の隅でいつきが制服姿のまま三角座りでうずくまっていた。
一睡もしていないのか、目の周りにはびっしりと隈ができている。
「どうしたんだよ、今日学校だぞ?」
「うぅ……」
目を潤ませて唸り声をあげるいつき。
欲求不満と自己嫌悪の板挟みになったようなその態度を、圭斗は過去にも見たことがある。
「私はなんてことを……」
その台詞はいかがわしい事をしてしまった時のいつきの口癖だ。
「い……つき……?」
ふと腰元に視線を移せば、ほどけたベルト。
暑くもないのに圭斗の額からは汗がポタポタと流れ出す。
「えっと、これ、いつきがやったの?」
いつきは圭斗の胸元をちらりと見てコクリとうなづく。
数秒間が空いて、圭斗は両手で頭を抱えた。
取り返しがつかない事態になった、と。
圭斗はベッドから滑り落ちるように降りていつきに這いよる。
両肩をガッシリと掴むといつきはビクッと身を震わせて目をキョトンとさせる。
「どこまでいった!?」
「えっ、どこまでって……ここくらいまで?」
そう言っていつきは自身のへその辺りを指差した。
「いや、えっ、ええっ!?」
いつきの顔と股間を交互に見て、圭斗は眉間にしわを寄せる。
果たして自分にそれほどのポテンシャルがあったのか、疑問を抱かずにはいられない。
「ごめんね圭くん、私どうやって責任取ったら……」
「責任取るのは俺だよ! いつきは悪く……な……」
否定しようとしたところで圭斗は言葉を詰まらせる。
寝込みを襲われた場合は果たして男に非はあるのか。
いや、いつきが不安定だったことを知りながら一夜を共にしたのだから自分が悪い、と腹をくくったところでコンコンとノックが聞こえた。
「アンタたち、いつまで寝てるの? もうご飯できてるわよ」
いつきの母・美月の声に圭斗の焦りは加速する。
この惨状を美月に見られる訳にはいかない。
圭斗はどうにかしてこの状況を隠そうと思案する。が、何をどう対処すれば良いのか分からず悩む。
「いつき、どうする!?」
「えっ、どうするって?」
「まずいだろ、流石にこんなの親にバレちゃ……」
圭斗の言葉でいつきの顔は一気に赤くなる。
てんやわんやと部屋中を駆け回る二人。
しかし無情にもドアはゆっくりと開きだした。
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