第3話 彼女の部屋はデンジャラス!③

 迫り来る唇を前に、いつきは頬を赤らめる。

 一度これを受け入れてしまえば行動自制のタガが外れ、大暴走をしてしまうのは目に見えているからだ。


 それでもこの機を流せば次のチャンスはいつになるものか。

 天秤にかける間もなくいつきの両腕は圭斗絡みついていた。


「ッ!?」


 圭斗の頭を抱き寄せて、いつきは唇を押し付ける。

 動揺したままぽっかり開いた口の中をまさぐるように伸びる舌。

 十数秒間、ねっとりと口付けを交わした後でいつきはむくりと起き上がり、脱力しきった圭斗を押し倒す。


 にへらと不慣れな笑みを浮かべて胸元のボタンを一つずつゆっくりと外すいつき。

 濁った瞳に理性は無く、ただ衝動のままに行動している。


「いつき!」

「ふぇっ!」


 上体を起こして圭斗がいつきの肩をがっしりと掴む。

 いつきはビクッと体を震わせた。

 薬のせいで鈍っていた判断力が戻ると同時に、胸の奥底から耐え難いほどの恥じらいが湧き出す。


「えっと、これはその……なんて言うか、そう、一時の気の迷いで……」


 わなわなと必死に取り繕おうとするいつき。

 泳ぎに泳ぐその視線に覆い被さるように、圭斗はいつきの体を強く抱きしめたい。


「ごめん、いつき……俺ずっと一緒にいたのにお前が苦しんでるのに気づいてやれなくて……」

「えっ?」


 何のことかといつきは首を傾げる。


「全部見たよ。あの箱の中身も、キッチンの薬も」

「うそっ! いや、えぇ……」


 己がドロドロとした感情を覗かれたような気がして、いつきは両手で顔を覆う。

 対して圭斗は真っ直ぐな目で見つめる。

 そんな状況のアンバランスに、いつきの思考は混乱を極めた。


「私、やっぱりおかしいよね? 普通の子みたいになろうと思ったのに、結局こんな暴走しちゃうし……」

「無理に自分を抑え込むなよ、いつきはいつきのままでいいんだよ!」

「ええっ! いいの!?」


 驚くいつきに圭斗はコクリと頷いた。

 ゆっくりと立ち上がり、いつきは箱から荒縄を取り出す。


「圭くん、痛くはしないから……じっとしててね?」


 縛られていく自分の手首を見て、圭斗は目をパチクリとさせる。


「ん、なんで俺のこと縛ってるの?」

「だって圭くんが言ったじゃん、『自分を抑え込むな』って」


 圭斗はようやく理解した。いつきが抑え込んでいたものの正体を。

 いつきが抱いていたのは自殺願望などではない。

 拗らせた愛情を相手にぶつけるのが恥ずかしかったのである、と。

 しかし、しかしである。


「薬と束縛はインモラルが過ぎるって……」


 いつきの癖にどこまで堪えられるのか、圭斗は半信半疑にならずにいられなかった。

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