第2話 彼女の部屋はデンジャラス!②
一時間ほど経った頃、ゲームに疲れた圭斗はふと部屋の隅へと視線を移した。
パステル調の明るい装飾の中、ひときわ浮いた茶色い箱。
側面にくっきりと描かれた通販サイトのロゴマークが圭斗の興味を掻き立てる。
「いつき、今なにが好きなのかな……」
いつきのオタク趣味は圭斗もよく知るところ。
が、高校生になってからというもの、その活動は鳴りを潜めている。
圭斗はゆっくりといつきを床に寝かしつけ、忍び足で箱に近づく。
「悪いな。お前の趣味、覗かしてもらうぞ」
封の切られた段ボールを勢いよく開くと、そこにあったのは細く長い荒縄だった。
「……ん?」
一度閉じて開きなおしてみても、そこにはただ物々しい荒縄が鎮座しているだけ。
圭斗は一度いつきの部屋を出て、顎に手を当てる。
「いや、えっ、なにコレ? 女子って荒縄使うことあるのか?」
混乱を隠し切れぬまま圭斗は階段を下りる。
落ち着くために水を飲もうとキッチンに入ったところで、再び圭斗はあらぬものが目に映った。
「ん、薬のゴミ?」
銀色の包装シートは一枚まるごと空になっており、圭斗の脳裏には嫌な憶測が流れる。
「そんなまさか……最近はめちゃくちゃ明るくなったし、友達もすごい増えてたのに……」
中学時代からの大変貌は圭斗から見てもすさまじいものだった。
しかしそれがいつきに過度なストレスを与えていたのでは……
そう考える圭斗の足は空回りするほど素早く階段を駆け上がっていた。
「い、いつきーーーーッ!!!!」
凄まじい勢いでドアを開け、圭斗は眠ったままのいつきに覆いかぶさった。
うるんだ唇に耳を近づけてみると呼吸は浅く、圭斗の心拍は一層跳ね上がる。
「ヤバい、どうしよう……このままじゃいつきが死んじゃう……」
睡眠時に呼吸が浅くなることは睡眠薬とは何の関係もない。
が、切羽詰まった圭斗はそんな事知る由もなく、あたふたと慌てふためく。
なんとかスマートフォンを手に取り、震える指で『息が止まった 助け方』と検索する。
「これだ!」
圭斗の目に映ったのは心配蘇生のページ。
当然ながらいつきの心臓はしっかりと脈打っている。
しかし圭斗は手を重ね、サイトに載っている通りに小気味良いテンポでいつきの胸を押し始めた。
「ガッ! ゴッ!」
突然の衝撃にいつきは迫真の奇声をあげる。
なおも無心で心臓マッサージを続けようとする圭斗。
「ちょ、痛い痛い!」
「えっ! あっ! ごめん!」
予想だにしなかった反応に圭斗は盛大にテンパる。
まとまらない思考。目の端に映る画面。
気が付くと圭斗は人工呼吸に移ろうとしていた。
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