彼女はヤンデレを堪えている
たしろ
第1話 彼女の部屋はデンジャラス!①
村雲いつきは幼馴染に睡眠薬を盛ろうとしていた。
高校デビューを機に垢抜けたいつきは、今や学校で一番の美少女である。
眼鏡をはずして髪色も明るい茶色に、オタ活を封印した余剰資金で服も一新。
しかし完全無欠のイマドキJKと化したいつきにも制御が効かないものがある。
それが五十嵐圭斗の存在である――
「おまたせー」
グラスが二つ乗ったトレーを片手に、いつきは自室のドアを開ける。
「おっ、サンキュー」
圭斗はテーブルの上に開いた教科書開いたまま、スマートフォンでゲームをしていた。
散切り頭の冴えない少年。しかしいつきにとっては唯一無二の親友である。
「もう、またゲームして! そんなんじゃ宿題終わらないよ?」
「いいだろ。俺バカなんだから、いつきがいないと勉強なんて何も分からんし」
視線すら向けずに投げかけられた素っ気ない言葉。
それを浴びたいつきはビクビクと体を震わせていた。
「そっか……そうだよね……圭斗は私がいないとダメ、だよね……」
口元が緩んで漏れ出すよだれ。
ドレッサーに移った自身の顔を見て、いつきはふと我に返る。
もしやヤンデレが漏れ出しているのではないか、と。
己が鬱屈した感情を抑え込むために行った大変身。
それは圭斗に女の子として見てもらうためのプロセスに他ならない。
しかし二人きりの極上空間を前に、そのタガが外れてしまった。
「どしたん? 早く座りなよ」
「あっ、うん」
言われるがまま座るいつき。
グラスを手に取り圭斗の前に置く瞬間、いつきの思考は一気に加速する。
仮に圭斗がこのジュースを飲んで寝入ったとして、果たして自分の理性は保たれるのか。
睡眠薬と同時に買った荒縄が縦横無尽に駆け巡るのは火を見るよりも明らかだ。
理性が勝ると共にいつきの腕は燕返しのように翻る。
一滴とて溢さない妙技を何食わぬ顔で成した後、もう一方のグラスを圭斗の前に差し出した。
「あれ、いつきの方なんか色変じゃね?」
「そっかな〜? いや、グラスの色じゃない?」
分かりやすくとぼけながら、いつきはジュースを一気に飲み干す。
「えっ、そんなに喉渇いてたの?」
「いや、まあ、そう、そんな感じ……」
しどろもどろな反応を圭斗は弱冠訝しむ。
しかし注意はすぐにスマートフォンに戻り、いつきも教科書に視線を移す。
びっしりと紙面を埋め尽くす文字。
読み解こうとするも、睡眠薬のせいかいつきの頭は全く回らない。
「うぅ……」
こくりこくりと視線が揺れる。
何分間か耐えた後、いつきの頭は圭斗の肩にストンと落ちた。
「いつき……いつきー?」
圭斗の呼び掛けにもいつきは全く反応を見せない。
スヤスヤと漏れる吐息。ほんのりと髪から漂う甘い香り。
雑念を断つように圭斗はゲームに集中した。
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