第8話 同調圧力 一本締め ケチャップライス

 ある剣道の大会で優勝を勝ち得た剣道道場の青年たちが祝宴を開いていた。その中でも優勝をもぎ取った青年たちのリーダーは静かな面持ちをしていた。

「勝って兜の緒を締めよ、という。今日の勝利が、次の負けにつながるかもしれない、と襟を正すべきだ」

 一本締めの異名をとるリーダーだ。どんな相手でも一本を先取する、先の先を取るの得意な俊足の使い手だ。

 勝ち戦のムードの中でお小言のようにいうが、面々は彼の実力を知悉している。その彼がいうのだ、かけられる同調圧力も自分たちの気を引き締めるという意味ではいい空気だ。

 その中で、女子たちは惨敗を喫したので耳が痛かった。自分たちが責められているように聞こえて、男子と違って反感を隠しもせずいじりたてた。

「でも、いいじゃん。あんたらは勝ったんだしさぁ」

「そうそう、あ、リーダー、姫があんたに食べてほしいのがあるって、手料理だよぉ」

「は、はい、作りました!」

「お、おう」

「なんだよ」「爆発しろ」「あれで付き合ってないの、マジ?」「くそ、じれってぇな」「姫、目がハートじゃん」「爆発しろ」

「う、うるさいぞ、お前たち。で、ではいただこうか、ン?」

 姫と呼ばれた女子が持ってきたのは、とても赤い、いや赤黒い、白い食器皿に極悪な赤さでいためられたご飯のようだった。

 ケチャップライス、といえばそう見えなくはない。刻んだ具の玉ねぎやグリーンピースの緑もケッチャプライスのように見える。少し白いのは鶏肉だろうか。

 しかし、赤い。そして黒い。

「頑張りました!」

「う、うん。頑張った、と思う、ぞ? と、ところで姫島」

「はい!」

「味見、はしたんだろうか?」

「そ、そんな旺次郎くんが食べるものに箸を入れるなんて」

 箸を入れるものなんだから味見はするんだろう、という突込みはたじたじになっている旺次郎が見られるので面々は面白がっていた。

「食べないんですか?」

 姫島は花がしおれるように輝きを失っていた。旺次郎も意を決して銀の匙を差し入れ、赤のチキンライスを口に入れた。

「ぅっ」

 といって、旺次郎は倒れた。姫島はキャーといって看病にかかる。

 姫島の周りにいる女の子が赤黒チキンライスのレシピを恐る恐る聞いた。

「ケチャップ一本とハバネロ一本ですぅ」

「な、なるほど、赤いね。どうして丸々いれちゃったのかなぁ」

「旺次郎くんの異名の一本締め、っていうくらいですから、そのほうが強くなるって思って」

 食って強くなる、というのは呪物信仰なのだが、姫島は呪術師か何かなのだろうか。

 ともあれ、この剣道場にもう一人の一本締めが現れた。

 拝借するのは意中の相手、というのがなんとも。

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