第7話 配置 ワイバーン 独占禁止法

 ダンジョンメーカーは自身のダンジョンにワイバーンを配置することが流行した。そのためクリーチャー市場でワイバーンが買い漁られ、一時期市場に出回らず、出ても高騰して一匹を買うのにフルセットのダンジョンを作るのと同等の値段が張られることとなった。

 しかし、そのためにワイバーンダンジョンは巷に溢れ、冒険者がワイバーンへの対策がなされるようになっていったため、かえって弱いクリーチャーという相対的な評価がされるようになった。

 独占禁止法はワイバーン問題が発生したために対応法として施行されたが、時代遅れとなった法律も改正する議論もなされずずるずると続いた。

 ある日、ダンジョンの査定をしている教会の人間がワイバーンが大量にいるダンジョンに遭遇する。このダンジョンは冒険者向けのダンジョンではなく、育成用のダンジョンであるとダンジョンマスターは答えたが、ダンジョン協会の調査員はワイバーンの数を見て、独占禁止法に抵触するのでは、という審議がなされ査察が入った。

 そして、日を追うごとに容疑が晴れていく。確かに、ワイバーンであるものの品種改良がなされ、クリーチャーであるものの人間に対する攻撃性やと火球発声器官の退化が見られ、ワイバーンの代名詞である空を飛ぶ飛翔性も航行距離も素早さも失われていた。

 ダンジョン協会はこの種のワイバーンを新種であると認め、ペットワイバーンとして認定した。

 しかし、憂慮を感じたのはクリーチャー開発機関だ。クリーチャーの意義である攻撃性を失わせ、あまつさえ人間サイドに力の増長を促す、倒しやすいクリーチャーの創造は冒険者と魔族の均衡を崩すことになる。

 これ以降、ダンジョンメーカーにはダンジョン内のクリーチャーの配分の提出が義務付けられ、独占禁止法は魔族において大罪であるという認識がされていった。

 魔族にのみ影響があると考えられたこの事件が冒険者サイドにも困ったことが頻発するようになった。

 ダンジョン内で捕獲したクリーチャーを育成する冒険者が現れたのだ。

 強いものというのは商売になる。冒険者も強さを尊ばれる一方、強い存在であれば何でもいい。そう、クリーチャーでも。

 冒険者のある王が、自身が統率するクリーチャーを率いてダンジョンを攻略していく、という魔族側への衝撃的な事件と、統率が取れなくなったクリーチャーが町を壊滅させた、という珍事件も頻発するようになった。

 クリーチャーも冒険者という認識が生まれ、ある有力な王が魔族領に対してある条約を宣言した。

「クリーチャーの独占を許さない。そのために魔族と冒険者の権利を平等にする、独占禁止法を国際法として宣言する!」

 この王は声高にいうが、冒険者からも魔族からも相手にされなかった。

 魔族領から最も遠い国だったからだ。しかし、気炎万丈でかつ聞く耳を持たない。

 だから、ほかの冒険者たちの王がそろっていった。

「あなたに魔族領に最も近い冒険者領へ赴いてもらいます、これは聖戦です」

 聞こえの良い文言にその王は飛びついた。体のいい切込みとしての配置だ。王は家臣を連れて赴いた。

 王は冒険者を引き連れ、戦場に赴いたが魔族領と戦ってこなかった練度の低い冒険者では頼みにならない。ちりぢりになって、逃げる臣下に悪罵を飛ばしながらこんなはずでは、と思っているところにペットワイバーンがいた。

 頼みに思ってペットワイバーンに縋り付こうとしたところ、アギトが喉笛に食らいついた。

 戦場で武勲を取らせようとし王がペットワイバーンに空腹にさせていたからだ。王を食らい、ペットワイバーンに変化が起こる。

 あまたあるワイバーンの中でも火球発声器官の肥大と向上、退化したはずの飛翔性と航行距離は翼を打ち振るわし隼よりも速く、密度ある筋肉によって戦場の冒険者たちを苦しめ、爪牙で切り裂いた。

 のちに冒険者、魔族共に脅威となるワイバーンロードの誕生だった。

 ワイバーンロードが蹂躙し、従えるクリーチャーの独占を禁止するほうもなければ力も魔族にも冒険者にもなかった。

 こんな力の配置になるとは神も考えていなかっただろう。

 ワイバーンを独占しようと考える人物は、もう魔族にも冒険者にもいなくなった。

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