未来へ ー山本ふみー
向日葵畑に到着すると、そこには太陽を真っ直ぐに見つめる向日葵たちが見事に咲き誇っていた。太陽の光を受けて真っ直ぐに育った向日葵たちは健気で、とても綺麗だった。オレンジっぽい黄色と、キラキラと輝く湖の水色の鮮やかな色彩はまさに夏で、この世の希望が全てここにあるような気さえした。生まれてからずっとこの町に住んでいたけれど、こんなに明るい景色があることを初めて知った。
「ここ、とても綺麗でしょ。家を買うときにね、この景色が決め手になったのよ。」
ふみさんは静かにそう言った。
「私、ここがこんなに綺麗だなんて知りませんでした。もともと向日葵を一輪だけ撮ろうと思っていたんですけど、この場所は切り取らずに全体を写したいって思わせられます。」
ふみさんはとても優しい顔をしていた。そんなふみさんを見て、私は思わずカメラのシャッターを切った。ふみさんは少し驚いた顔をした。
「すみません、とてもいい表情だったので、つい。なんだか旦那さんの気持ちがわかった気がします。」
「あら、気にしないで。その写真をマスターのところに持っていきましょう。またこの場所で写真を撮ることになるなんて思っていなかったわ。」
ふみさんはそう言って、楽しげに笑った。
「このカメラ、フィルムカメラなので現像しないとダメなんです。だから明日喫茶店に持っていくのでもいいですか?」
「もちろん。楽しみにしてるわ。じゃあまた明日。」
そういうとふみさんは静かに帰った行った。私はあと一枚だけ撮って帰ろうと、カメラを構えた。今日、この景色に出会えた喜びと、素敵な夫婦の温もりをいつまでも覚えていたいと願って。
翌日、私は写真を持って喫茶店へと出向いた。中に入るとふみさんは既に着いていたようだった。店内にはマスターとふみさん、そして私しかいない。
「写真、持ってきました。これ、良かったらもらってください。」
私はふみさんに写真を差し出した。
「ありがとう。」
ふみさんはその写真を嬉しそうに受け取ってくれた。
「まあ、とても綺麗に取れているわね。早速だけれど、ふみさん。過去を見る?」
マスターが言った。
「ええ。お願いします。もう一度だけあの人の顔を見たいの。あの、あたたかい笑みを見たいの。」
「では、こちらへどうぞ。」
マスターとふみさんはカウンターの奥へと消えていった。人の大切な思い出を知り合ったばかりの私が見るのは失礼だと思い、私はカウンターで待つことにした。
しばらくすると、マスターと先ほどより明るい顔をしたふみさんが戻ってきた。彼女の纏っていたどこか哀愁を感じる雰囲気は、すっかりなくなっていた。きっと彼女はあの向日葵畑から出られたのだろう。
「お嬢さん、ありがとうね。おかげで私、次にあの人に会うまで前を見て生きれそうよ。」
お礼を言ったふみさんは軽い足取りで帰っていった。
マスターと二人きりになった私は、気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、戻りたい過去を見せてくれるってどういうことですか?」
するとマスターは意味深に微笑んだ。
「カウンターの奥にはね、少し不思議な部屋があって、そこでは戻りたい過去が見られるのよ。私はそうやって、過去に囚われた人が今を生きるためのお手伝いをしているの。」
どうやら戻りたい過去を見ることができるというのは本当らしい。
「そうだ、あなたにお願いがあるの。夏休みの間、毎週金曜日、私のお手伝いをしてくれない?お客さんとその人の過去がある場所の写真を撮ってきてほしいの。」
元々カメラが趣味だった私はその“お手伝い”をすることにした。週に一回でいいならば受験勉強の息抜きにもなるだろう。
「わかりました。また来週の水曜日来ますね。」
返事をした私は帰路に着いた。
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