現在 ー山本ふみー
メニューを開けると、そこには美味しそうなランチメニューが並んでいた。どれも魅力的で捨て難いが、ナポリタンを頼むことにした。実は、カウンター席に座る女性が食べているのがとても美味しそうで店内に入ったときから気になっていたのだ。
「すみません。ナポリタンとアイスコーヒーをください。」
「かしこまりました。ちょっと待っててちょうだいね。」
注文を終えた私は店内に流れるオルゴールを聴きながらボーッとしていた。
「ふみさん、例の相談の続きもう少し待っていただける?」
“ふみさん”、カウンターに座る女性の名前らしい。
「ええ、もちろんよ。」
昨日の女性、つまりこの喫茶店を営む女性はマスターと呼ばれているらしい。私もマスターと呼ばせてもらうことにしよう。ふみさんはおそらくマスターと同じぐらいの歳なのだろう。ふみさんもマスターに負けず劣らず上品だ。
「ねえ、お嬢さん。とても素敵なカメラ持ってるわね。」
私は、くるりと振り返ったらふみさんに突然話しかけられた。
「ありがとうございます。これから湖岸まで向日葵を撮りに行くんです。」
「とてもいいわね。写真お好きなの?」
「はい。一つ一つの思い出を写真に撮って形にして残しておきたいんです。」
「そうね。記憶の中だけの思い出は、どれだけ大事にしていても少しずつ形を変えてしまうものね。」
するとふみさんは懐かしむような表情をした。そして心の奥深くにそっと大事にしまっていた思い出を、壊れないように慎重に一つ一つ取り出すように話し始めた。
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