第81話 イケメンとそれ以外の争い
「やめて!助けて!」
「爺様!やめてくだされ!……ぎゃあ!!」
人が揉め合っている。
老婆が蹴り飛ばされて、倒れかけた。
「『クッション』」
時夫は咄嗟に魔法で老婆が地面に倒れ込むのを防いだ。
「大丈夫か婆さん?」
ん?なんか見覚えある。
「えーと……ヴェルダ婆さん?」
自称イケメンの夫が森に行って困ってた老婆だ。
「じ、爺様が……」
枯れて骨ばった指が指したのは、時夫より少し年上くらいの女性に掴みかかり引き摺ろうとする老人だった。
それを止めようとするルミィの忍者軍団と、何故か邪魔する町民達。
忍者軍団も戦闘要員じゃ無い上に、町民に怪我をさせるのは憚られるのか、手こずっている。
「何だよ!何してるんだ!」
とりあえず自称イケメンの余りそんな感じはしない顔の爺さんを女性から引き離そうとする。
「何でだよ!何でこの人を攫おうとする!」
「ワシも妖精のところに行くんじゃ!他の男達と一緒に貢物を持って行くんじゃ!
女の精気で妖精様の力を強めるんじゃ!ワシは聞いたんじゃ!妖精様を狙う愚か者が他所から………………まさか、オマエラか!?」
ジジイの癖に結構力強いな!?
「ジジイ!何で妖精に殺されてないんだ!!」
顔が良く無い男は殺されるはず!!
「ワシはブ男じゃ無い!けど……何故か行けなくて……微妙に具合が……。
……とにかく女を連れて行けば妖精様は喜ぶんだ!オマエラのような奴に負けはしない!!離せ!!」
「それは呼ばれてないんだよ!目を覚ませ!ジジイ!アンタはイケメンじゃ無い!!」
「何じゃと!?……そうか!!オマエラが永遠の若さを得ようというワシに嫉妬したんじゃろ!
それで、ワシが森の奥に行けぬように変な魔法を使ったんじゃろ!!」
ジジイが激昂しながら女の人を離して時夫に掴み掛かる。
「妖精様を守れ!!」「女を連れて行け!」
男達が騒ぎ出す。
ルミィが女の人を捕まえて空の上に逃げる。
「コイツら妖精様に楯突く異国民だ!殺せ!!」
男達が剣を抜く。
よく見るとバートンジジイ以外の男は若いしイケメン揃いだ。
つまり、永遠の若さと富を与えてくれるバトリーザを失いたく無いのだ。
その時、町長が息を切らしながら走ってきた。
ゾフィーラ婆さんもその後を遅れてついて来ている。婆さんが町長を連れて来たようだ。
「お前ら!もうやめろ!!妖精は討伐される!!これは上からの決定事項だ!」
町長が叫ぶ。
「ブ男は黙ってろ!アンタが補助金をがめてる事なんて町人なら全員知ってるぞ!」
「んぐ…………」
どうやら着服は真実らしく町長は黙る。
ディナーもめちゃ豪華だったもんなぁ。美味しいお肉頂いちゃったから、時夫も共犯みたいなもんか。
つまり、妖精は顔の良い男にとっては殺されては困る都合の良い存在なのだ。
町長だってイケメンなら討伐は何としても邪魔して来たかも知れない。
「森が開放されたら国に森の管理権をくれてやって、上の役職に引き立ててもらい、この町を捨てるつもりだろ!!」
「……んぐぐぐ」
町長の悪巧みは町人にみんなお見通しらしい。
時夫はちょっと気になった事があったので、すすす〜っとゾフィーラ婆さんに近づいて、こそっと質問する。
「もしかして、この国の偉い人ってそんなに顔良く無い?」
「……ええ、アーシュランは顔立ちが良い王族揃いで有名だけど、それ以外はあまり……。
今のこの国のトップの顔は知らないわ。でも、その前の親の代はブ……一般的に人気があるタイプでは無いような……少し個性的な……」
つまりブサイクがトップを務める国らしい。
良かった。イケメンだったら国との戦いになるところだった。
自分たちが得られない若さよりは、瘴気の拡大防止と森あるとされる魔石の鉱脈が重要なのだろう。
「トキオ!もう戦いに行きましょう!
この場を抑えても直ぐに
ルミィが近くに来た。
「若い女だ!」
近づいて来た男(イケメン)をルミィが杖で強かに打ち据える。
「その方に手を出すな!主君を守れ!」
忍者軍団がルミィが狙われた事に怒り狂う。
戦闘職じゃ無いのに、調理担当も含めて頑張って戦っている。
町民を殺しはしないが、怪我は許容範囲内にしたらしく、戦いはさらに激化する。
「何でも良い!子供でも!女を連れて行くぞ!
妖精様のために!!」
イケメンどもが醜く喚き、叫ぶ。
「あの女の人どうしたの?」
ルミィに聞く。
「宿にいたこの国の冒険者にお金と一緒にお任せして来ました。
ちゃんと守れたらさらにお金を後で渡します」
「ここ、忍者軍団に任せても平気かな?」
「残念ながら若さを貰えなさそうな男性もこの町には多いので、そう時間を掛けずに鎮圧するでしょう。
しかし、争いを収めるならやはり……」
「原因をさっさと潰すのが良さげだな。
婆さん、あんまり身体を休める暇も無かったけど行けそう?」
時夫が聞くと、ゾフィーラ婆さんはニコリと微笑んだ。
「ええ……バトリーザと顔を合わせるのは50年近くぶりね。会えるのが毎日待ち遠しくて堪らなかったわ。
今直ぐにでも早く会いたいわね。……でも、その前に着替えてからで良いかしら?
待ち侘びた日が来たのだもの、ふふ……」
婆さんは冗談めかしてそう言うと、顔の皺を寄せて笑みを深くした。
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