第80話 バトー町の因習
ここ、バトー町は規模の割には、随分と大きく立派な宿があるのだった。
忍者軍団含めて全員が一人一部屋割り当てても余りそうだ。
何だか他にも冒険者っぽい人も泊まっているようだ。
国の違いか、少し装備が違ってるなぁ。
しかし、時夫はその宿には泊まらない。
町長さんから、討伐チーム三人は特別に自宅に招かれた。
少しでも体力も気力も満タンで挑みたいので、遠慮せずにありがたくお世話になることにする。
ルミィは町長の家に行く前に、忍者軍団に言い聞かせる。
「良いですか、お顔の良い男性じゃ無いと酷い目に遭わされるんですからね。
自分なら平気とか思って森に行ったらダメですよ!」
バートンなるジジイみたいな自己評価高い奴は滅多にいないと思うけど、念のためだろう。
男だって若さに執着心が全く無いわけでも無いし。
時夫ももっと歳を取ったら寿命が尽きる前にチャレンジしてみたくなるかも知れない。
一応、忍者軍団は平均年齢三十前後だから無茶はしないとは思いたい。
そして……ルミィは優しさからハッキリとは言わなかったけど、所謂イケメンに該当する奴がいないので、皆んな自覚持ってて欲しいな。
とりあえず、彼らは放置して、豪華な食事にお招きいただけた。
貴族風のマナーは少しだけルミィに習ったけど、正直不安しか無いので、ルミィを観察しながら真似してパクリ。
……!?お肉美味しい!もっと食う!
ガツガツ肉を食べる時夫はさて置いて、町長はルミィに話しかける。
「いやぁ……かの有名な『暴風の姫騎士』様をこうしてお招きできるとは……。
末代までの自慢となりますなぁ」
ゴマすりすりといった風情でヒゲとハゲと丸いお腹がチャームポイントの町長はルミィを物騒なんだか、ファンシーなんだか分からない呼び名で呼んだ。
「いえ……昔の話です」
ルミィが口元を優雅に拭いながら謙遜する。
時夫はゾフィーラ婆さんに、ナニソレ?と目線で回答を求める。
すると、時夫の手元に、ぼうっと光の文字が浮かび上がった。
他の人は気がついてない様だ。
――戦争でルミィちゃんが活躍して付いた二つ名よ。獣人の国との戦いで武功をあげてたの。
婆さんの光魔法は害虫駆除しか見た事なかったけど、こういう使い方も出来るんだなぁ。
そんでもって、獣人の国……ってのがあるのか。
そことルミィは戦ってたのか……。知ってる獣人が親しい狐獣人しかいないから想像がつかないな。
それにしても……暴風の姫騎士か。確かにルミィは結構荒っぽい戦い方するよなぁ。
一人ならもっと速く杖で空から奇襲かけられるだろうし、近接戦闘得意だし。
「森に自由に出入りできる様になれば、魔石採掘もできるでしょうし、女が攫われる事も無くなるでしょうから、大変喜ばしい限りです」
町長の続く言葉に、ルミィが成る程と首肯する。
「この町で生まれた若い女たちは、攫われる前にと他所に逃げて戻ってきませんし、男も自信のある者は自分から邪教徒の元へ行ってしまいます。
そして、知らない間に邪教徒の手下になって、女達を無理やり力尽くで……」
町長は大袈裟に首を振って嘆いて見せる。
「でも、それでも町に残る女の人がいるんですね……」
時夫が気になって聞いてみた。
男ならメリットが一部の人にはあるし、その他の男たちも自分から森に近づかなければ安全である。
しかし、女の人にとっては、顔見知りすらイケメンは信用できない恐ろしいところだ。
「補助金が出てるんですよね」
ルミィが町長を厳しい目付きで見据えながら確認する。
ルミィの言葉に時夫は首を傾げる。
「そして、罪人や被差別民の女をここに連れてきていますね。違いますか?」
ルミィの詰問に町長はしばし黙り……観念した様にため息をついてから、口を開いた。
「攫われる女が現れるのはせいぜい年に一度ですし、国が行く宛の無い女たちをこの町に連れてくるんです。
私は補助金を使って彼女たちの世話をしてやるのが一番の仕事ですよ。
町の男と結婚させて子供を産ませるんです。
じゃないと、人口が減り続けますから。
子供を産めばしばらくは出て行けなくなりますし。
出ていける女が出て行った分だけ、この町は補給が必要なんですよ」
町長の話は時夫にはよく分からなかった。
混乱する時夫を尻目に、ゾフィーラ婆さんが口を開いた。
「つまり、このティルナーグはバトリーザに生贄を与える事で共存を図っているという事?
なんの為なのかしら?」
年老いたゾフィーラの凛とした様子に、町長は少したじろいだ。
「……邪教徒は災害の様なものです。
国は邪教徒バトリーザをあの森に留めておきたいんです。
昔はあの邪教徒はこの国のあちこちの森を転々としながら、瘴気をばら撒いていたそうです。
瘴気にやられた森からは魔物が発生する様になりますし、瘴気を完全に取り除くのは大変な事です。
だから……あの森を気に入り、捨てないように獲物を供給しているんです……。
あちこち国中を瘴気まみれにされるよりは一箇所で悪さされてる方がずっと良い。
私だって本当は嫌なんですよ?でも、こうするのが一番被害を少なく出来る方法なんです。
……海を隔てている分、他の国にはあまり行かないのがバトリーザの特徴です。
もちろん、何十年も前には……そう、あなた方の国で邪神と共に勇者と戦ったなんて話がありますが、その後戻ってきてからは、ずっとこの国に留まってるんです」
時夫は頭の中で今の話を噛み砕いた。
そして、質問する。
「もしかして、いつ頃誰を攫うかは実は決められていて……それは外から来た罪人や被差別民で……あんたら町の人が協力してるのか?」
沈黙が降りた。
「どうなんですか?」
ルミィが静かに問いただした。
「……はい。外から来た女で、子育てが終わった女を攫わせてます」
再びの沈黙。
それを破ったのはゾフィーラ婆さんだった。
「でも、それももうお終いね。バトリーザは滅します。
我々はこれまでの事も後のことも知りません。
ねえ……ルミィちゃん、時夫くん、やはり宿に泊まらない?部屋は空きがあるはずよね?」
「あ、うん。そうしよう」
時夫は慌てて頷く。
「では、おいとましますね」
ルミィも優雅に立ち上がり、挨拶の返事を待たずに退室する。
「あ、お見送りを……!」
町長が慌てて、手を伸ばし追ってこようとするのを、振り向いたゾフィーラが微笑みながらピシャリと断る。
「結構よ」
町長はその有無を言わせぬ威厳に絶句し、時夫たちの方に手を伸ばしたまま立ち止まった。
そして、屋敷を出ると、ルミィの手下の一人が走り寄ってきた。
「大変です!女性が攫われかけていて……助けようとしたら町の人と揉めてしまって……」
時夫はルミィと目配せして、騒ぎの方向に手下と共に走り出した。
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