第79話 増える面倒
港町で十分に休息を取りつつ、知り合いへのお土産をしっかり購入した。
そして、休むと言いつつも忍者軍団は仕事をしていてくれたらしく、妖精の森の場所を調べてくれていたらしい。
「さあ、出発しますよ」
時夫はルミィとゾフィーラ婆さんと一緒の馬車だ。
『クッション』を使って快適な移動だ。
……他の馬車で移動する忍者軍団の分を作り続ける器用さは無いから、そっちは我慢してもらう。
こちらは呑気な3人組に見えて、戦闘部隊だからなぁ。
「しかし妖精ねぇ。そんな可愛いもんかな」
花色の天使とやらは、要するに男好きの女嫌いである。
時夫は悍ましい醜く歪んだ顔の化け物を想像してみる。
「見た目は本当に御伽話の妖精そのものだったわ」
婆さんは呼び名を肯定した。
「幼い少女のような容姿で、透明な翅が背中から生えてて……波打つ縹色……明るい青色の髪の毛に白い花をたくさん飾って……あんな状況じゃ無ければ、その姿の素晴らしさに、きっと感動したでしょうね……」
婆さんは外を見ながら仇の姿を思い出すように目を眇めている。
穏やかな声だった。
恨みが無いわけはないのに。ただ、見たものをそのままに告げている様だった。
時夫は思いがけない敵を褒める様な言葉になんと答えれば良いのかわからない。
婆さんはイタズラっぽく笑う。
「私の様なお婆ちゃんが何処まで通用するかしらね。楽しみよ……」
「まあ……俺らがいるし。
もし、ダメそうでやばくなったら婆さん背負って走って逃げるよ。俺、スッゲェ足速いから。婆さん驚いて腰抜かしちゃうかもな」
婆さんはそんな時夫の強気か弱気かわからない言葉にクスクスと笑う。
「ええ……頼りにしてるわね。時夫くんも、ルミィちゃんも」
「お任せください!私もダメそうならゾフィーラさん杖に乗せて逃げますから!」
ルミィも胸を張った。
時夫もうんうんと頷く。
「そうそう。俺らは生きて戻ってくれば勝ちみたいなもんだから。
勝てなくても嫌がらせになるだろうし。
嫌がらせか……逃げながら、その森とやらにゴミでも不法投棄して行ってやるか。
あるいは火でも……」
「残念ながら火をつけてもすぐに消化されておしまいでしょうね」
ルミィに否定されるが、時夫は諦めない。
「じゃあ……スライム投棄してやるよ」
時夫はあの、ある意味最強の鎧たるスライムをまだ大量に持ってきている。
他にもノーマルなスライムも持ってきている。
時間があればいろんな種類のスライム持ってきたのにな。
外来生物で森の生態系を殲滅してやる!
「ふふ……とっても頼もしいわ」
ゾフィーラ婆さんは結構笑い上戸の様で、時夫が何を言っても笑ってくれるので、時夫はその後も調子に乗って色々しょうもない作戦を披露した。
そして、何度か休憩を挟みつつ、妖精の森の最寄りの小さな町にたどり着いた。
町中を少し歩くと、啜り泣く老婆がいた。
「もしかして……若さを奪われた人なんじゃ……」
年齢はゾフィーラ婆さんと変わりないくらいに見える。
「とりあえず、お話聞いてましょう。
少しでも情報が必要です」
時夫とルミィと婆さんで、そっと啜り泣く老婆に声をかけた。
「あの……どうしたんですか?」
驚かせない様に、ルミィが代表で声を掛けた。
「うう……妖精の森……」
やはり、若さを奪われた人なのか?と、時夫は確信したが、
「爺様が……自分は若い頃そこそこイケてたから、妖精に若返らせてもらうって……家族全員反対したのに森に……」
「…………………………」
自意識過剰な爺さん……残り少ない寿命を縮めてしまったか。
「そうですか……」
いや、家族としては悲しいだろうな。
しかし、なんも言えないな。
「旅の方……もしや腕に覚えが?」
老婆が涙に濡れた顔を上げる。
「え?……あの、まあ、はい。そんなアレの感じっすかね?」
時夫はこの展開は何だろうと思いつつ、控えめに肯定する。
骨ばった老婆の手が時夫の肩にグワシと掴みかかった。
「お願いです!爺様を助けてくだされ!……必ずやお礼はいたします!」
「……一応お聞きしておきますが、無事若返って帰ってくる可能性は?」
「有り得ません!!!」
有り得ないらしかった。
「まあ、元々、ちょっとあの森には行く予定があるので、ついでにそれらしい人いたら声掛けときますよ」
「トキオ……安請け合いは………」
「お願いします!ありがたやー!」
拝まれてしまった。今更ダメだとは言えなさそうだ。
邪教徒討伐に、自意識過剰ジジイの捜索が加わってしまった。
「爺様の名前はバートンです。ワシはヴェルダと申します。よろしく……よろしくお願いします」
しわしわの手で時夫の両手を包んで縋ってくる。
時夫は敬老精神高めのために振り解けない。
「はあ……頑張ります」
頑張る感じになった。
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