第77話 着いたぜ港町!

 やっとついたぜ!ティルナーグ!


 イカ騒動の後も、デカい魚と戦ったり、槍を持った半魚人の群れに襲われて、槍を持って船に上がって来ようとしたり色々あった。


 もうちょい優雅な感じを想定していたけど、移動だけで結構疲れたな。

 海での移動は元の世界どころでは無く命懸けだ。

 この世界の漁師って皆んな武闘派なのかな?


「ここまで次から次へと怪物に襲われるのは初めてですよ。

 我々は女神アルマに見放されたのかと……」


 少し仲良くなった調理担当がお祈りを捧げるポーズで、無事に辿り着けたことに安堵しつつ、そう漏らした。

 どうやら時夫達は取り分け運が無かったようだ。

 

 あと、女神は見放してない。割とよく見張られて思考盗聴されてる方だから大丈夫だ。…………大丈夫じゃ無いな。


「そういや、イカとか食っちまったけど、襲って来たの奴らは魔獣とは違うの?」


 博学ルミィ様に聞いてみる。


「普通の動物が瘴気にあてられたのが魔獣です。人間だと、瘴気病になるか、邪神の介入で邪教徒になるかです。

 海で邂逅したのは瘴気を纏ってないし、死んだ後も死体が残ったでしょう?」


 ――どっちも性悪ハーシュレイの作品……


「神が暇なのやめろ!用があったら呼ぶから仕事してろ!いつも忙しいとか言ってやがった癖に!」


 時夫はとりあえず空に向かって文句をつける。


「トキオ……頭大丈夫ですか?」


 時夫の奇行にルミィが引いている。

 くそっ!


「頭は大丈夫だ。そう言えばハーシュレイが、強い個体作りたがってたとかアルマが言ってたな。

 過去にマッドサイエンティスト神が作った作品の残りか……」


 ……獣人もそうだとか言ってたなぁ。いや、それは別に良いんだけど。

 時夫は狐獣人のコニー達を思い出しかけてブンブン頭を振った。


「ゾフィーラ婆さんは、部屋の中結構揺れて大変だったろ?」


「すみませんねぇ。私だけ戦わないで」


「いや、いざという時に備えておいて貰わんと」


 婆さんには部屋に篭っといてもらった。

 一応戦えるらしいけど、お年寄りだし敬老精神は大事だ。

 魔法も沢山使うと疲れるし、本番はこれからだから体力を温存して貰わないと。

 カズオ爺さんも時夫達と戦った時には既に疲れが出てたし、高齢者は強くても連日は全力で戦えないのだ。


 冒険者も四十代くらいから体力の限界を感じて、金に困ってない人はリタイヤするのが普通みたいだし。

 金や名誉の為に戦い続けて命を落とすのも冒険者の生き様でもあるようだが。


 そう言えば、忍者軍団の人から人魚がガチで存在するらしいなんて話を聞いて、ちょっと興味を持った。

 しかし、探しに行こうだとかのワガママは流石に言えなかった。

 予定も有る事だし……。

 ………………邪教徒倒した後にルミィにちょっとお願いしてみてもダメかなぁ?


 時夫はなんか変な生き物がまた出現しないかと、陽光を反射し、キラキラと眩しい海を目を眇めて眺める。


 この世界に存在する人外の趣味が、少し元の世界の神話とか伝承と被るのは、ハーシュレイが強つよ生命を作る時に参考にしてるからなのかな?

 あるいは、別の世界から来た人が、元の世界にもいて、その人の喋った事が伝わってるとか?


「トキオ、ほら、ぼんやりしてないで早く宿に行きましょう」


 ルミィは船を降りる前に、また中々貴族らしく着飾っている。

 時夫もそれに合わせて少しだけちゃんとした服を着ている。

 うーん……普段ラフな格好ばかりしてるから窮屈だ。

 日本にいた頃には毎日ネクタイ締めてたのに。今だとそんなの耐えられそうに無いな。


 さて、忍者軍団も合わせると十数名だけど、宿一つ貸切なのかな?

 ……なんて思っていたら、ホテル一つ貸切でした。


「ブ……ブルジョワジー……!!セレブか!?」


 見るからに立派な高級ホテルだ。この港町は観光地でもあるようで、ホテルはそれなりに立ち並んでいるが、その中でも一番立派だ。

 貴族様の財力を舐めてたようだ。

 これ、時夫も泊まっていい奴なのか!?


「あの……お金、俺の部屋の分払います……」


「なんで急に敬語でモジモジしてるんですか。良いですよ。邪教徒討伐のためなら、ちゃんと国に申請出すと補助金出るんです。

 貴方とゾフィーラさんの宿代くらいは出てますから」


 ルミィが腰に手を当て呆れたように言ってる。


「でも、補助金っつっても、こんな凄い高級ホテル!貸切とか!全員分は国から出ないだろ!?

 あと、貸切にするのに他の客はどこ行ったんだ!?」


「別のホテルに行ってもらいました。退いてもらう分宿代はこちらで持ちました」


「……ローダ家って金あるんだな」


「……まあ、そうですね」


 思わず呟く時夫の言葉をルミィは否定しなかった。

 なんで、そんな金をポンと出せるお嬢様が、何も無い神殿なんか……それも勇者を隔離しているような区画で暮らしてるんだ。


「……なあ、そのうちお前の事とか詳しく聞いても良い?」


「……そうですね。そのうち。ほら、足を止めてないで早く行きますよ」


「おう!」


 その後、時夫は高級ホテルの割り当てられた部屋の豪華さにはしゃぎ倒した。

 そして、最上階の一番お高そうなルミィ部屋に、ゾフィーラ婆さんを誘って行って、さらにはしゃぎ倒した。


 あちこち忙しなく部屋の調度品を色んな角度から眺める時夫に、ルミィが声をかける。


「せっかくだから、数日はここで滞在します。

 他のサポートメンバーの船での戦闘の疲れをとってからが良いでしょう」


「やったー!観光するぞ!」


 ルミィの決定に、時夫は両手を万歳して喜んだ……後に、ゾフィーラ婆さんは寄り道するより早く仇を倒したかったんじゃ、と思いチラッと顔色を伺う。


「私も買い物でもしようかしら」


 良かった。婆さんも楽しむつもりらしい。

 ニコニコ微笑んでいる。


「俺!荷物持ちするよ!世界最大の『空間収納』を頼ってくれ!」


 時夫の生活魔法のカリスマとしての実力を是非とも勇者に見てほしい。


「あら、でもせっかくのお誘いだけど、若い二人でデートした方が良いんじゃないの?」


 婆さんは揶揄うようにクスクスと上品に笑う。


「デ……いや、ルミィと買い物はよくしてるし。なぁ?」


「そうです……!別に……!!」


 時夫は古風な日本男児ゆえに、その……デートなどとチャラチャラした軟派なことは軽々とはしないのだ!!

 ルミィも怒りに顔を赤くしている。

 ルミィもまた、古式ゆかしい大和撫子なのだろう……大和撫子の精神性に日本人じゃないとか関係ない!


「でも、申し出はありがたいけど、一人でぼんやりお散歩するのが好きなのよ。

 私も『空間収納』は時夫くん程じゃ無いかも知れないけど得意だから、私みたいなお婆ちゃんに気を遣ってくれてありがとうね。

 お買い物も……デートじゃなくても歳の近い人同士の方が楽しめると思うわ」


 婆さんの言葉にルミィと顔を見合わせる。ルミィはまだ顔が赤い。

 色白だから赤くなると分かりやすいな。


「まあ……買い物くらいはね、ルミィと行くこともあるかな?」


「単なる買い物ですもんね……」


 そんな二人を見て、ゾフィーラ婆さんはまたクスクスと笑った。


 

 


 

 

 

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