第58話 商品開発
ルミィの謎の調査能力の結果、乳製品を仕入れられなくなったのは、やはり成金ロン毛野郎が圧力をあちこち掛けている所為らしかった。
金持ち伯爵家のお気楽ボンボン次男は何故そんなにこっちのアイスクリーム屋を目の敵にするのか……。
単に断罪パーティで王子共々恥かかせて、女受けが悪くなっただけなのに……!
そんなお間抜けブルジョワ八つ当たり勘違いカッコつけ野郎に負ける訳にはいかないので、対抗手段を考える。
先ずは商品開発から!
トッキーチームは氷は凄い純度の高いものを作れる。
伊織は女神からチート級の各種魔法の才能を貰っている。
ただし、威力とか微調整とか、運用する方の才能は貰ってない様で失敗も多いらしい。
それはさておき、とにかく空気や不純物の含まれていない水を出してもらう事なら、容易く出来るのだ。
そして、それをフォクシーが凍らせると……。
「やったぁ!良い感じの透明な氷だ!」
そして、先日、『魔道具屋ウィル』に土下座しに行って超スピード納期で作ってもらったのが、このかき氷機である。
時夫と伊織のあーだこーだと身振り手振りと、二人の頑張って書いたイラストを元に、上手い事作ってくれたのだ。
無理を言った分お金は多めに払おうとしたが、逆にかなりの割引いた金額しか受け取ってもらえなかった。
命の恩人から、金をそんなに受け取れないと。
そして、理由はそれだけでは無い様だった。
「そのライバル店の店主って、第一王子と近い関係の人なんだろ?
……頑張ってくれ。俺たちの為にも」
そう、ウィルは第一王子に妻を殺されかけ、自分もその為に慣れない冒険者になって死にかけた事を忘れてはいないのだ。
復讐と言うほどでは無いだろうが、数ヶ月で忘れられる様な話では無いのだ。
伊織はやはり複雑そうな顔をしていた。
何ヶ月もアホ王子や成金パクリアイス屋の庇護下にいたのだ。
でも、伊織は悪く無いけどな!
日本から問答無用で攫われて言う事聞かされただけだし!
誘拐犯に懐くやつ……ストッキングホルム?症候群?的な奴だから!
うちの看板娘が悪い筈は無いんだ!バカ王子たちが全部悪い!
早く伊織にも王子たちを見限って欲しい所だ。……学校のクラスメイトだから少し難しいかも知れないが。
心優しき伊織の洗脳はまた追々考えていくとして、次に必要なのはシロップだ。
日本のシロップは、実は全部同じ味で色と匂いだけ変えているなんて話だが、そんな物は時夫には逆に作るのは逆に難しそうなので、実際に果汁を使ってシロップを作る。
ちょっと割高になるかな?
シロップに使うフルーツは、時夫が家庭菜園で作りまくれる。
そう、植物の成長を早める『緑の手』という生活魔法に魔力を注ぎまくることで、気持ち悪いくらい早く収穫ができるのだ。
お陰で普段から充実した食生活を送ってたりする。
季節も関係なく育てられるからな。
種は『空間収納』に前々から保存しまくっていたので、時夫はなろうと思えば今日から八百屋にだってなれるのだ!
さすがカリスマ!早く皆んなに周知されて認められて崇め奉られたい!
ショリショリ氷を削るのは、ルミィが楽しそうにやっている。
子供っぽく青灰色の目を輝かせて楽しそうだ。
出来たフワフワの白いかき氷を、物珍しそうに狐姉妹が見ている。
フォクシーがスプーンで掬って食べて、空色の瞳をまん丸にして、もう一口、もう一口……。
気に入った様だな。
あ、頭痛を堪える顔をしている。氷系魔法使いなのに、冷たいのでダメージ喰らうのか……。
いや、時夫も炎系だけど実は猫舌だから似た様なもんか。
「トッキーさん!果汁を凍らせてそのままかき氷作ったら美味しそうじゃ無いですか?」
伊織は商品開発を一番真面目に考えてくれている。
本人が考えたと言うより、多分日本のどこかで見たり聞いたりしたのを無意識に思い出してるんだろうな。
でも、日本でありふれた物も、こちらでは世界初かも知れない珍しさがあるのだ。
だから、本当に伊織が思いついたか、それとも記憶の底から汲み出したのかは重要では無い。
「何それ天才!採用!」
時夫が調子良く褒めると、やったー!とおどけながら喜んでみせる。
伊織はかなり楽しそうだ。やっぱりお店屋さんって良いな。楽しい!
時夫と伊織でキャッキャとはしゃいでいると、何故か不機嫌そうな顔のルミィが口を出してくる。
「一人の意見ばかり反映するのは全体の士気に関わりますよ!」
「そうは言ってもアイデア出してくれるの伊織ちゃんだけなんだもん。じゃあ、ルミィもなんかアイデア出してくれ」
ルミィは考えてなかったのか、ギョッとした顔をする。
かき氷をそもそも知らなかったルミィにいきなり聞くのは反則だったかな。
ルミィも知識が無い話ばかりでつまらなかったのかも知れない。
子供っぽい所があるから構ってやらないとダメたな。
「えーと、えーと、じゃあ……可愛くするとか!」
ルミィは一生懸命考えて答えてくれた。
困った顔も可愛いな……じゃなくて!
具体性が無さすぎて評価は難しい。
「うーん……具体的に可愛くする方法とか思いついたのあるか?」
一応少し突っ込んで聞いてみる。
「えーっと、あ!お花飾るとか!」
「お花かぁ……」
お花……飾るの?
時夫には上手くイメージ出来ない。
植木鉢みたいにするみたいな?
しかし、伊織はパチパチと手を叩いて、そのアイデアを称えた。
「良いですね!食べられるお花を飾ったら一気に可愛くなりますよ!
ルミィさん天才!」
「え!?私天才!?えへへ……私天才かぁ」
ルミィが頬を赤くして照れている。美人二人が手を取りキャッキャしてる。
華やかで良いなぁ。この空間にいるだけでロン毛緑頭に人生の幸福度で完勝してると言っても過言では無いな。
「食べられる花かぁ……花屋さんに聞いてみるかな」
お客さん食べるのかな?
それともパセリや刺身のタンポポみたいに食べたい人はドーゾ的な?
よく分からんけど、女子たちがはしゃいでるなら、女子受けは良さそうだ。
「学校でも宣伝しますね!」
伊織がそう約束してくれた。
貴族令嬢とか来るのかな?服とかこんなんで大丈夫かな?
何はともあれ店の商品の今後は決まった。
どうせこれも真似されるだろうが構わない。
もう一つの問題、小狐誘拐の調査もある。
今はルミィが単独で調べてくれてるが、かき氷の売り出しが始まったら、時夫ももっと本格的な実地調査を始める予定だ。
そして、伊織が姿を消した。
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