第43話 新たな聖女!?
既にカズオとは仲間になった気分の時夫は、軽ーい気持ちで、時夫最大の秘密をぶっちゃけた。
「実は俺が本物の聖女なんだなーこれが」
「…………………………は?」
カズオには、すぐには理解できなかったみたいなので、時夫は懇切丁寧に説明した。
カズオは、下を向き、ブルブル震えながら、拳を握る。爪が手のひらに食い込み、血が滲むほどの強さだ。
怒り心頭である。
「えーっと……爺さん大丈夫?」
血管切れてポックリ死なれても困る。
「アルマ……やはりアヤツを野放しには……」
やばい。復讐の天使再びだ。
「いやまあ、ほら、そこは、あはは……」
語彙力の不足で時夫は誤魔化し笑う。
「ちょっとトキオ!何ですか、あははじゃ無いですよ!もうちょっと頑張ってください!」
ルミィが怒る。なんだよ真面目振りやがって。
「でも俺は今結構楽しくやってるからさ。
だから良いんだ。齋藤さんも周りと打ち解けて今は充実してやってるよ」
「そうですよ!聖女なんて誰がやったって良いんです」
何とかカズオを二人で宥めつつ、目的の場所にやって来た。
ここ、マルズ国での瘴気病患者の収容先の病院だ。
時夫が聖女として祈りを捧げるために来たのだ。
「……本当に時夫が聖女なんだな」
祈りを見て、カズオが唸るように呟いた。
可愛い女の子の方が絵になるだろうが、時夫はコソコソ人から見つからないように祈ってるので、見栄えの悪さは許されるべき。
そのままマルズ国の病院をいくつか順番にまわる。
カズオも時夫の赤毛バージョンの姿で病院を一緒に回った。
そして、ある病院が古臭く、看護師の不足で病人で溢れかえっているのを見て、ルミィが時夫たちに断りを入れる。
「私、少し手伝っていきたいです。お二人は宿に帰っていて構いません」
「いや……ルミィ、俺も手伝うよ」
「……俺も残ろう」
結局三人で病院の手伝いをする事になった。カズオは、慣れない手つきなりに頑張っている。
しかし、どこか居心地の悪そうな雰囲気があった。無理もない。この惨状はカズオが引き起こしたのだ。
病に侵された幼い子供が寝付けず、母親に泣きついている。
それに対して、文句を言う患者がいる。
人手不足で疲れ切った看護師が、それを懸命に宥める。
体が弱って、握力が無くなっているのだろう、物を取り落とした患者がいた。
カズオがそれを拾い上げ、その手に乗せる。
「ありがとう……ございます」
弱々しい声だった。しかし、動かない体を無理に動かし、カズオの方を向いて感謝を伝える。
カズオが下唇を噛んで首を僅かに振る。
「自分は……」
「行こう、爺さん」
食事の介助は大体済んだ。使い終わった食器をカズオに持たせて、患者の側を離れさせる。
時夫もルミィもカズオを罰したい訳ではない。
時夫達は警察官でも裁判官でもないのだから。
ただ、邪教徒じゃ無くなればそれで良い。
カズオは……元々悪い人間ではない。
自分の人生の全てを諦めながら、時夫と伊織のために女神アルマと戦うことを選んだのだ。
見ず知らずの二人のために。
そんなカズオだ。誰に責められなくとも、きっと病院での光景はカズオを苦しめているだろう。
その苦しみくらいは当然なのかも知れない。
でも、半世紀近くを孤独に生きたカズオに更に苦しんで欲しいとは時夫は思っていなかった。
だから時夫は今一度祈った。
瘴気病の人のために、そして、カズオのために。
そんな生活を続けて数日、
新聞を読むと、無視できない大きな見出し。
――真の聖女がマルズ国に現る!!アーシュラン国(時夫を呼びつけた国の名前だ)の聖女は偽物だった!
――戦う聖女ユスティア!魔獣を討伐する
どうにもこうにも、病院で患者が奇跡の回復を見せているのは、このユスティアが祈りを捧げたお陰であると主張しているらしい。
マルズ国民は、聖女の奇跡を祝福して、その人気はあっという間に広がった。
自称聖女ユスティアを題材にした演劇まであるらしい。
新聖女が話題になって直ぐなのに手際が良いと思ったら、既存の劇のヒロインの名前と姿をユスティアにしただけらしい。
聖女人気に乗っかりたいだけか。
街中に貼られたポスターは本物の聖女に寄せて描いているらしく、ミルクティーのような優しい色の長い髪の綺麗な少女が剣を持って魔獣相手に可憐に勇ましくポーズをとっている。
「どう言う事だ?」
聖女が増えたのか?良いことだ。
新聞を真面目な顔をして読み込んだルミィが答える。
「どうやら……時夫が祈った病院での患者の回復は自分たちのお陰だって主張してるみたいです」
「マジか……どうやって……あ!そう言うことか!」
ミルクティー色の髪の毛は、ルミィの変身後の髪色と似ている。
「そうなんです。
私が実は聖女だったということにして、なりすまされてるんです。
病院では名前名乗りませんでしたし、名乗っていたとしても偽名だっただとか、釈明のしよういくらでもあるでしょうから」
ルミィがやれやれと嫌そうにしている。
面倒が自分に降りかかって来たのがよっぽど嫌なようだ。
「変身しないでおけばどうだ?国を離れたんだし」
「いえ……私の髪と目の色のセットは目立つんですよ」
確かにルミィほど明るい金髪は、アホ王子くらいしか見たことないな。
平民は黒から焦茶が多いし、貴族は魔法の属性だか何だかもらあって赤やら青やらもいたが、金色って確かにあんまりいなかったな。
青い目はたまーにみた気もするけどな。
「特殊な家の出身なのか?」
カズオが時夫が気になっても聞けないことをズバズバ聞く。
年代の差なのか?カズオはプライバシーとかは気にしないようだ。
「まあ、そんな感じです」
ルミィは素っ気なく答えた。やはりあまり言いたくない模様。
「ふーん……どんな色か気になるが、まあ良い」
カズオもそこまで掘り下げて聞く気はないようだ。
「まあ、俺らは気にせずやる事やってお国に帰ろうぜ。
別に聖女名乗りたきゃ勝手にしてて貰っても良いだろ」
「そうですね。帰っちゃえばきっと気にならなくなりますね」
行く予定のある病院は残り一箇所だけだ。
街から少し離れた場所にある病院を目指す。
その時、良く通る少女の高い声が背後から聞こえた。
「見つけました。あの人が邪教徒です」
ミルクティー色の長い髪の毛の、細身の剣を腰に下げた少女が、スッとその白くたおやかな指をカズオに真っ直ぐに向けて嗤った。
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