第31話 潜入!王立魔法学園!
時夫とルミィは今後について話し合った。
まず、王家が信用出来ないと言う点ではバッチリ意見が合った。
なので、時夫こそが真の聖女であると名乗った場合は、伊織の処遇も、時夫の今後の自由もどうなるかわからないので、伊織には悪いが代役を務めておいて貰うことにした。
そして、時夫伊織のそばになるべくいる事にした。
伊織が祈ったタイミングで近くで時夫も祈る事で、病を治す奇跡は伊織が起こしたのだと周囲に錯覚させるのだ。
しかし、その為にはもっと協力者が必要だ。
近々、王子と聖女は国中を周りながら、巡礼と邪教徒討伐をするらしい……と新聞に書いてあった。
できればそれにくっついて行きたい。
なんならその御一行の一員になりたい。
アレックス第一王子は何と言っても現在最も王の座に近い人物だ。大量の護衛やら世話係が付くだろうから、その中に紛れ込みたい。
ルミィの謎のコネだけでは紛れ込むまでは出来そうらしい。
が、正体をバラしたく無ければ、正体を隠すのを手伝ってくれる人をそろそろ募った方が良いとルミィが提案して来たのだ。
そんな訳で、アレックス王子や伊織となるべく近い関係性且つ、信用出来そうで、口が硬そうで、王子のやり口に不満を持ってそうで、色々融通が利きそうな性格の……都合の良い人材を探す為に、やって来ました、王立魔法学園!!
そして、採用されました用務員!!
時夫に『乾燥』の魔法を授けてくれたボルゾイ師匠は、ちゃんと約束を覚えてくれてくれた。
時夫とルミィを用務員として採用してくれたのだ。
「良いか、用務員の道は険しく困難な道だ。
だがな……お前たちは良い目をしている。きっと
身長2メートルの師匠の節くれだってゴツゴツした大きな手が時夫の撫で肩に、力強くも優しく置かれた。
「はい!師匠!いち用務員としてこれから精一杯頑張ります!」
時夫は偉大なる師匠の激励に感涙しながら腹から声を出して返事をした。
「頑張ります!」
ルミィも元気に返事をした。
さーて、伊織と王子は何処にいるだろうか?
掃除に勤しみつつ、学園での様子や人間関係を観察するぞ!
時夫は変装済みの赤毛に用務員の制服のキャップをしっかりと被り、念の為の変装用のメガネを掛けた。
ルミィもミルクティー色にした髪をポニーテールにして、帽子の後ろから飛び出させている。
ヘーゼルに変化させた瞳もメガネで隠し、変装バッチリだ。
この生活魔法のカリスマが本気を出せば学園中ピッカピカだが、それだと作業がすぐに終わって、早々にお役御免になってしまいかねない。
なるべく手作業で頑張ろう。
時夫はボルゾイ師匠の教えを忠実に守りながら、両親に感謝、友人に感謝、世界に感謝、そして何より大事なラブアンドピースを胸に、心を込めて学園の床を磨き始めた。
「感謝!感謝!感謝!………………感謝!」
ルミィもブツブツ呟きながら窓を拭いている。良い感じだ。ルミィもきっと良い用務員になれるだろう。
フッ……俺も負けてられないな。
「……感謝!!」
時夫は呟き、床を擦る手に力を込めた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「きゃー!すみません!ごめんなさい!!」
「もう!またですか?何度やったらわかるんです?」
伊織はまたやってしまった。
魔法薬の精製手順を間違えて、クリスタルの容器が爆発してしまったのだ。
魔法薬のクラスは、薬剤を扱える教室が狭いので男女分かれての履修となっている。
つまり、アレックス第一王子や、伊織を普段守ってくれている王子の友人達がいない為に、令嬢達はここぞとばかりに伊織を責めた。
「わたくしのスカートにクリスタルのカケラが付いてしまいましたわ!破片で怪我をしたらどうしてくれるの?」
「薬品このまま床に溢したままにする訳にはいかないわ。早く掃除しないと……」
「ごめんなさい!あ、床は私が綺麗にします!」
伊織は一番得意な魔法の水を操り床を掃除しようとした。
「お待ちなさい!」
女しかいない時での伊織の監督責任者であるところのパトリーシャが慌てて伊織を止める。が、遅かった。
ザバザバザバーーーー!!!!
「きゃー!」「ちょっとー靴が濡れちゃう!」「薬品混じってるから気をつけて!」
水が大量に発生して、あたり一面床がびしょ濡れになった。
下の階に水が浸水してもおかしくない量だ。
教師が生徒達に水から離れる様に言いわたし、掃除させる為に用務員を呼びにいった。
「……イオリ様、先生が最初に仰ったでしょう?
魔法薬の精製が速やかに行われる様に、水系統の魔法支援の強力な魔道具を五つも作動させていると……。
そんな教室内でイオリ様ほどの魔力量の方が水を発生させては、こうなるのも当たり前です」
パトリーシャの言葉に、伊織はシュンと項垂れつつ感謝を述べた。
「そっか、魔道具とかよく分からなくて聞き流してた。説明してくれてありがとうね」
パトリーシャに怒られる伊織を見て、他の令嬢がヒソヒソと囁き合う。
伊織は社交とか、貴族の言葉とかが分からずに、女子の集団の中で既に完全に浮いていた。
アレックス王子がいれば、伊織がヘマをしても執りなしてくれるのだが、今しばらく我慢するしかない。
その時、ドアがノックされ赤毛のメガネの用務員が入って来た。
用務員といえば、やたらと体が大きいお爺さんばかり見かけていたが他にもいたらしい。
「失礼いたします」
若い女性の用務員も入って来た。ミルクティー色の髪をポニーテールにしていて、丸メガネでなかなか可愛らしい。
用務員の二人はヒソヒソと何か話し合った後、赤毛の男性が何かを唱えた。
するとあっという間に床の水は無くなってしまった。
「……魔法だ」
瞬きをする間のあっという間の出来事に、伊織は思わずそう呟いた。
「当たり前でしょう?」
パトリーシャには伊織の呟きが聞こえたらしい。彼女には自分の失敗が瞬時に解決された驚きと感動は伝わらなかったらしい。
伊織は赤毛の用務員と目があった。
用務員は安心させる様に軽く頷いてから、部屋を去った。
伊織はその後もいつも通りに、失敗しては顰蹙を買い、教師に指されても答えられず、パトリーシャに勉強不足を諌められ、他の令嬢に冷笑され、アレックス王子や乳母子のリックや騎士を目指すイーサンや、のんびりした性格の令息のフィリーに庇って貰いつつ、何とか魔法世界の常識が分からないままに授業をこなしていった。
「魔法学園ってもっと楽しいところだと思ってたけど、大変過ぎる……もっと勉強頑張らないと」
最近は病院の慰問で忙しいけど、勉強道具持っていった方が良いかも。
……勉強する時間あるかな。
でも、聖女だもん。頑張らないと。もっと。
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