第13話 テオール一家の不幸

 テオールの取りなしで、一応怪しくはあっても危険な人物では無い事は信じてもらえた。

 一先ず皆んなで串焼き肉を一つずつ食べてから、話をすることにした。


 テオールの双子の弟と妹、カイとルルは美味しそうに串焼きを両手で持って食べている。

 もっと沢山買ってやれば良かったかな。


 姉のミーシャはテオールがスリをしていた事を知り、悲しそうな顔をした。

 

 テオールは近所の大工の手伝いをしに行っていると話していたが、実際には仕事は週に一回貰えれば良い方で、それだけでは家族が食べて行けずにスリに手を出していたそうだ。


「この度は弟がご迷惑をお掛けしました。

 なのに、食事まで頂いてしまってなんと申し上げれば良いのか……」


 ミーシャは謝罪と感謝を何度も何度も告げて来た。


「いや、困った時はお互い様というか……」


 時夫は照れて頭を掻く。


「それで、父親が行方不明って聞いたんだけど……」


 一家の困窮の原因はそこだろう。一家の働き手がこんな小学生みたいな少年なのは流石におかしい。


「はい……。

 実は一週間前から帰って来ていないんです……」


 そもそも、この一家が困窮する事になったのは、母親が瘴気に当てられて倒れた事が始まりだった。

 母親は医術の知識があり、回復魔法が少しだけ使える事から町の診療所で看護師的な仕事に就いていたそうだ。

 ある時、国からの依頼で軍の調査に同行していった際、何人かの軍人が瘴気を濃く纏った魔物に襲われ、瘴気病に罹ってしまった。


 瘴気病は、その名の通り瘴気に触れる事で、様々な病が引き起こされ、最悪死に至るそうだ。

 テオールの母の懸命な治療もさほどの効果は無かった。

 聖女や神官達の使う神聖魔法以外は瘴気病には対処療法でしか無いのだ。


 そして、瘴気病の者は魔物から瘴気を移され、身体に瘴気を纏っていた。その為にテオールの母を含む、同行した医療従事者達も治療をするうちに瘴気に身体を蝕まれてしまった。


 国に協力した為に母親は病に罹ったのにも関わらず、国はテオールの一家に何の保証もしなかった。

 

 そして、その事を父親が陳情すると、逆に瘴気病により何人かの軍人が亡くなったり、軍から離れざるを得なくなった事を責められた。

 治療が悪かったのでは無いかと。


 そしてある晩、第一王子からの見舞金とやらを持った使いの者が現れた。

 第一王子が指揮した調査にこれ以上ケチを付ければ、一家のために良く無い事が起きるであろうと仄めかされた。

 

 多数の死者を出したその調査で第一王子は世間から批判を受けていた。

 功を焦るあまりに無謀な調査を断行し、そのため被害が出たのでは無いかと。

 それに対し第一王子は、同行した医療従事者達の技術不足が原因だった、その証拠にその医療従事者達も病に罹ったのが証拠だと言ってのけた。


 テオールの父は最初は意地でも見舞金を使わずにいようと思っていたが、瘴気病は段々とテオールの母の体力を奪い、治療費が嵩む中でどれほど悔しくても使わざるを得なくなってしまったそうだ。


 そして、その見舞金も受けた被害に対してはあまりにも少ない額で、あっという間に使い果たしてしまった。

 弱っていく妻のためにテオールの父は借金を重ねていった。

 

 金に困った父親はついに冒険者ギルドに加入して、冒険者として危険な仕事に従事する事になったのだ。

 そして、一週間前、冒険者として北の森の瘴気の被害調査に乗り出し、未だ帰ってこない。

 借金取り達は若く可愛らしい顔立ちのミーシャを借金のかたに連れて行こうとしているらしい。


「で、お母さんは今も?」


「はい。少しずつ悪化し続けていて……。

 治療費も実はずっとお支払いしていなくて、何とか待っていて貰ってるんですが、もう……」


 ミーシャは唇を噛む。


 時夫も俯く。

 お金の話は時夫には解決が現在難しい。

 しょんぼりする時夫に、そそ〜っとルミィが近づいて来て、耳打ちする。


「活躍のチャンスじゃありませんか?聖女様?」


「いや、活躍は……あ、聖女?」


 そうだった。時夫はそもそも生活魔法のカリスマになる為にこの世界に留まっているのでは無い。


「なあミーシャ、お母さんに会わせてくれ。何とかなるかも知れない」


 

 

 

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