第12話 テオールの家族

「おっちゃん!串焼き肉五つ!」


「あいよ!まいどあり!美人さんもたくさん食いな!ほら一本オマケだ!」


「お、ありがとう!今後も贔屓にさせて貰うよ!」


 おっちゃんから6本の串焼き肉を受け取る。


「ちょっとトキオ!太っ腹過ぎますよ!スリの子供に奢るなんて……」


 ルミィはちょっと呆れた様子だ。


「良いって。どこか座れるところ探そうぜ」


「もう!」


 ルミィも諦め気味だ。

 よし、人生何でも諦めが肝心なんだ。若いうちにそれに気がつけて良かったな。


 テオールは行方不明の父親とそっくりな顔の男が気になるのもあるのか、大人しく着いてくる。


 噴水の広場に来て、段差になっているところにルミィとテオールを座らせる。

 串焼き肉をルミィに一本、テオールは育ち盛りだから三本渡す。男ならそんくらい食べられるだろ。

 時夫の分は二本だ。

 

 広場からは遠くに白亜の城が見える。あそこに本来聖女となるはずだった女子高生が住んでるのか……。

 まあ、時夫よりは周囲がサポートしてくれるだろうから何とか頑張って生きてくれ。


 時夫は立ったまま串焼きに齧り付く。

 おお!溢れる肉汁。香りたつハーブ!なんともジューシーだ。

 気前の良い店主だったし、これはリピート確定だ。


 ルミィもちびちびと齧り始めた。

 テオールは一口食べた後、俯いてしまった。


「少年どうした?口に合わなかったか?」


 そこまで好き嫌いが分かれる味では無いけどな。もしかして菜食主義とか?


「あの……これ家に持って帰って良い?」


 テオールは美味すぎて取っておきたいタイプか?


「でも、温かいうちの方が美味いぞ。せめて一本は今食べたらどうだ?」


 美味いものを美味いうちに食べるのは作り手に対する礼儀な気もする。

 まあ、あげたものをアレコレ言うのも変な話かな。


「あの……お姉ちゃんと、弟と妹にも食べさせてやりたいんだ!」


 時夫はルミィと顔を見合わせた。

 ルミィはモグモグしつつ、真面目な瞳で頷いてみせた。

 別に時夫はルミィとツーカーの仲では無いので、普通に何が言いたいかはわからなかった。

 まあ、ルミィの考えとかは別にどうでも良いか。


「話を聞かせてくれ」


 テオールは頷いた。

 とりあえず、テオールの家に行くことにする。

 串焼き肉が冷め切る前に、きょうだい達に食べさせてやらないとな。

 それと……時夫はまだ口を付けていない方の串焼きをテオールに差し出す。


 テオールは首を傾げながら受け取る。


「四人きょうだいなら串焼き四本必要だろ?落とさないように気をつけろよ」


 テオールの顔がクシャッと歪んで、目に涙が浮かんだが、一度空を仰いで泣くのは堪えた。

 よし、男の子だ。男は簡単に泣くもんじゃない。


「……ありがとう。僕の家はそこまで離れてないから……何も、お茶も出せないけど」


 テオールの家は細い路地の奥まったところにあった。


「あ、ちょっと待ってくれ」


 家に入る前に、変身のネックレスの魔法を解く。

 本来の姿に戻った。

 驚くテオールに簡単に説明する。


「俺の姿は……目立つから変身してたんだ。お前の親父さんの格好なのは、たまたま偶然参考にしたのがお前の親父さんだったって話だな。

 親父さんの姿のままじゃ、お前の家族も驚くだろうからな」


「あの……トキオさんは東の民の人なの?」


 どうやら東の民とやらは、アジア系の顔っぽいな。


「……まあそんなところだ」


 その時、


 ガチャーン!


 大きな音が家の中から響いた。

 テオールが慌ててドアを開ける。


「お姉ちゃん!カイ!ルル!」


 テオールがきょうだいの名を呼ぶ。

 時夫とルミィも続いて家に入る。


 家は古くこぢんまりとしているが、普段は綺麗に大事に保たれているだろう事が何となくわかる温かな雰囲気があった。

 そう、普段は。


 二十歳前後の薄茶の髪で深緑の瞳の若い女性が、まだ5、6歳くらいに見える男の子と女の子を守るように抱き抱えてる。


 その前の床に食器が散乱し、不機嫌そうな中年の二人の柄の悪い男が突然の乱入者である時夫たちを睨みつけて来ている。


「テオール!」


 女性が心配そうにテオールを見て声を上げる。

 小さな子供たちは、姉に抱きつき泣くのを必死に堪えていた。


「へえ、綺麗な顔してるから金になるとは思っていたが、既に自分で金蔓を見つけて来ていたとは……おとなしそうに見えて中々……

 おい!お前、この女のツレなんだろ?早く代わりに金返せよ!……それともミーシャの代わりにそっちの女を差し出すつもりで連れて来たのか?」


 柄の悪い男はニヤニヤ笑いながら、ルミィを見て舌なめずりする。

 すごい!お手本の様なガラの悪さだ!

 時夫は感心していたが、ルミィは嫌そうな軽蔑の眼差しをガラ悪い男かける2に向けている。


「悪いが今日は手持ちが無いな」


 時夫は嘯(うそぶ)く。

 時夫は事実として貧乏人なのだ。


「ちぃっ!……また3日後来るからな!次金の用意が無かったら、その時は身体で払って貰うぞ!」


 良かった。平和的にお帰りいただけた。

 串焼き肉はまだ冷め切っていないだろう。


 ガラ悪男達が去ったドアを暫く見つめていたテオールのお姉ちゃんらしき人が、ようやく立ち上がった。


「テオール……その人達は?」


「あー……お邪魔します。俺たちはテオールの……………………お友達?で、良いのかな?」


 残念ながら、その説明ではテオールの姉、ミーシャの警戒を解く事は出来なかった。

 

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