4 まいほーむ(築93年旧厩舎内、庭付き1間)


 帰ってまいりました。

 なんて感覚はみじんもないが、寝床に帰ってきた。

 場所はドッケンヘン辺境伯領の都ドッケンヘン。その中心である高い石積み城壁と水堀で囲われたドッケンヘン城。小さな丘の上にある。敷地はじゃぱんの世界遺産なお城まではいかないが中々広い。城館や天守塔も見えたが、どれも重厚な石造りだ。この辺りで一番重要な拠点なんだろうと思う。


 そんな城の敷地内。北東の城壁付近に同胞及び私(面倒だから今後はくぉーたーずとでもする)の家がある。

 その外観であるが、見た目内実共にボロイ平屋。これどう見ても年経た馬小屋……いや大きいから厩舎か。今は戦奴を放り込むためにりふぉーむして、結構な手が入れられた元厩舎って奴だ。


「手に持ったものを、ここに置け!」

「寝床に入れ!」

「おまえ! 大人しくしろ!」

「さっさと行け!」


 督戦の連中に言われるがままにして、くぉーたーずは家に向かう。記憶に残る場所、馬房二つ位を一つにしたと思われる寝床に入ると、そこは今生の記憶にあるままであった。


 嬉しいとかそんなものはないが、なんとなく安心してしまった。


 ではガタガタと戸が閉められて、ヒトの目もなくなったので、私のねぐらを紹介しよう!

 部屋は建屋に全二十室ある内の十三番室。出入口は南向き。外開きの開き戸で、食料他諸々を差し込む小さな戸窓付き。カギは内ではなく外側。閂は上と下に二か所。

 室内は縦横はおおよそにして三メートル四方、高さも約三メートル。全土間。照明ナシ。窓ナシ。水樋アリ。水瓶アリ。風呂ナシ。壺便器(これゲームの牢屋にある奴ー)、わら敷き寝床、木桶一、木皿一、完備。屋根は雨漏りする腐った板材。壁は全面粗雑な石造りだが、北側には庭につながる小さな間口あり。

 奥の庭は部屋ごとに仕分ける為か、両側に目測で高さ三メートルの石壁が北側の城壁まで三メートルに渡って続いている。城壁の高さは八メートルほど。地面は砂地だが、所々に草が生えてる。そのたくましさにわらえてくる。


 なんという、三の嵐!

 なんという、(腐)良物件か!

 ヒトが住むには劣悪としか言えない!

 牢獄の亜種というべきか悩むが、それでもなんか整ってる!

 俺達の為にわざわざ整備したのかと思うと、なみだがちょちょぎれる!


 ……。


 いや、真面目な話、先の移動中にした野宿(露営の月見)に比べれば、屋根があって、一応風雨やヒトの目を遮れる上にとかく滅ぼすべきごぶごぶがいないからいい。いいんだけども、おトイレが、その、むき出しで寝室にあるとちょっと気分がね。よって最初にしたことは壺便器を庭に出すことだった。

 ちなみにであるが、この身体になって一番驚いたことは、大きい出す方だ。カラッカラッに乾ききった小石みたいなのが、ほんの少しだけ出るだけ。これにはびっくりというか、余すところなく吸収しすぎではと思わないでもない。これも得た栄養を逃すまいとする進化の結果、なのかはわからないが、明らかに食べ過ぎると太るのは間違いない。もしも女性陣が私の立場になったとしたら、きっと耐えきれないだろうなと想像してしまう程だ。


 それはさておき。

 少しでも住みやすくするため、努力するべきだろう。


 ……文明人への道は遠い。




    ☩   ☩   ☩




 遠いなんてもんじゃありませんでした!


 帰宅して早七日。

 こちらの世界ではどういう暦かわからないが、とりあえず一週間で期間を切ってできたことは、天気のいい日に寝床わらの陽干し、雨が降った時に腰巻の洗濯(洗剤なんてなかった)、ついでに手もみ洗いによる身体の汚れ落とし。以上!


 ぶんめいじんへのみちはかくもけわしきさかみちか……。

 のぼりはじめたばかりなのに、もうくじけそう。


 というかなんとかしようにも、あまりにも物がなさすぎて、どうのしようもない。


 壺便所は固定!(あたりまえだよなぁ)

 寝床のわらは大事に使用中!(代わりがあるなんて考えてはいけない)

 水瓶は水樋の受けになるから固定。(一日分の水量が少ない少なくない?)

 木桶も水瓶近くに常備だが、雨が降った時は雨漏り対策に。(即急なる修繕を希望する)

 木皿は格子窓のでっぱりに置いておかないと、メシがもらえない。(量はあるが、マズイ云々の前に塩気が足りん)


 使える道具がない!

 だから仕方がないので、そう、仕方がないので! 部屋の壁のちょっと小突いて、石を作り出しました。うーんふしぎだなぁ、かべからいしができるなんて。ばれなきゃかまへんかまへん。


 まぁ一部に尊い犠牲があったかもしれないが、これで石器時代の到来って奴よ。

 とりあえず、この手の平大の石器(ただの石)を使って……、どうする?


 私は庭の真ん中に座り、頭を傾げる。


 なにをするんだったか?


 ……はっ、そうだった。


 住環境の改善だ。

 ならまずは雨漏り対策だ。今わかっている個所から庭への導線を作って、寝床側に水が来ないように盛り土をする形にすれば……、あー、庭の水もあるから下手すりゃ変に溢れるか。なら庭に穴をほって水が流れるこむようにして、あれ、これ庭に頑張って穴ほっていけば、北側の城壁の下にトンネルを……、いや、城壁の上からこっちを覗き込めるから難しいか。


 でも脱獄というか脱走モノの映画、あったなぁ。

 万難辛苦を超え、友柄を失いながらも自由への逃走って感じ。今の私にピッタリ?

 いや、そもそもの話、私の身体だと出入口の引き戸くらいは蹴破れるよなぁ。後、戦場での行き帰りでも逃げ出せそう。


 ……。


 いやでも、今の段階で衣食住の内、服以外は最低限保証されてることを考えると……、それに外のアイの子への対応もアレだし、字も読めないし一般的な知識もないから早々に詰みそうだし、うーん、逃げても後が続かない気がする。


 なら今は大人しくして飼われておくしかないか?

 ただこれからも間違いなく戦場に連れ出されることを思うと、いつ何どき死ぬかわからん。というか、用無しになった時点で食い物に毒入れられて終わりか。


 ……そう。


 そうなんだよなぁ。

 私が安心して生きていこうと思えば、今の組織は信用できない。ここにいると、常に死が近くで寝そべっている。そんな感覚だ。やっぱりまいほーむとして、賃貸はダメだな賃貸は。代価が命なのは割に合わん。

 かといって、今の私にどうにかできるわけでもなし。未来の私がきっとなんとかしてくれるでしょうでは話にならない。なんとかなぁれで済むのはヨイ物語だけ。あれ、前にそのうちなんとかなるだろうなんて考えていた気がしないでもないけれど、そんなことあったかなぁうふふ。


 さてどうするか。

 外で生きていけるだけのモノを、私に明確に足りないモノを、手に入れる必要がある。


 つまり、見聞……情報や知識。


 ここを連れ出される時……戦場に向かう時にそれらを集め、来るべき日に備える。あと可能ならば、この部屋に道具になりえるモノを持ち帰る。他に庭との仕切りというか夜具になりそうな布。今は大丈夫でも先に寒くなった時に酷い目に合う。そんなのは勘弁だ。


 そんな訳で、とりあえず今は、室内の手入れでもするか。


 ……ほんと、平穏な暮らしが欲しいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る