第四章 寄神

1 雑音の多い電話

「はあ――平坂神社のことについてお調べですか?」


電話越しに聞こえて来たのは、しゃがれた老人の声だった。


「ええ。」冬樹はうなづく。「それで、図書館で資料を探したのですが、全くなくて困っていたのです。」


放課後――家に帰ったところ、図書館から連絡があったと祖母が言伝してくれた。田代が、郷土史家の名前と電話番号を教えてくれたのだ。ゆえに、さっそく電話をかけたのである。


――だが。


気にかかって冬樹は尋ねる。


「平坂神社のことについてご存じなんですよね?」


当然のように彼――菅野は答えた。


「ええ、知っとりま よ。」


初めての反応だ。期待を覚えると同時に、いささかの不安も感じる。知らないと言われるのが今までは普通で――普通ではない反応を菅野はしている。


「平坂神社は倒産したと聞きましたが――」


倒産――と妙な声が返ってきた。


「あれは、なぁなったんじゃない ヅヅですか?」


「なぁなった――?」


「なかったんですよ。」


冬樹は首をかしげる。


しかし、見ず知らずの家に電話をかけ、時間を取らせているのだという負い目があった。ひとまず、本題を先に切り出すこととする。


「とりあえず――平坂神社のことと、そこで行なわれていた神迎え・神送りについて訊きたいことがあります。今、お時間はよろしいでしょうか?」


菅野は、ううん、と困ったような声を出した。


「なにぶん、私は歳のせい ザザ身体が不自由でしてね――。平坂神社に関する資料ならば部屋にたくさ  ヅ ヅあるのですが、  ゾれを見ながら電話を掛けるのは辛いのです。」


どういうわけか、受話器からは激しい雑音が聞こえている。菅野の声も随分と聴き取りづらい。


迷っていると、菅野はこう尋ねた。


「学生さんですか?」


「ええ、今、中二です。」


「ははあ。お若いで なあ。学校の課題か何かですか?」


「いいえ、ちょっと、個人的に気になっていて、調べているだけです。」


「それでしたら、学校がお休みのと  ヅにでも、家に来らぇてはみませんかね? 写真などもありますので、実際に  ヅ ヅちらへ来て見ていただいたほうが解りやすいと思います。」


「あっ――。ありがとうございます!」


思わず頭を下げる。


「あの、できればクラスメイトも誘いたいんですけど、大丈夫ですか?」


「ええ、全く構い せんよ?」


「では、彼らの予定を確認してから、折り返しお電話を掛けたいと思うんですが――」

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