第19話 171
遠くにある天井から射す光は、未だに消えないことから、「外と繋がっているのは間違いないと」司は元気づけるように言ったが、そこに辿り着くまでの道のりは平坦ではないと感じている。
なぜなら入り組んだ迷路のような地形に悩まされ、先に進めなくなっては何度も引き返す。その上、穴ぼこを避けれるようにスピードを落とすので実際あまり進んだ気がしないからだ。
「だいぶ水溜まりが増えてきているな」暗闇に目を凝らしながら、運転する司。
「穴ボコだらけでガタガタだね」
体を前後左右に揺らして二人は話している。
「気をつけないと ハマって出られなくなるかも知れないな」
「ねぇ、とーちー。スマホ繋がらないの?」
「まだ圏外のままだな……ん!? あっ、そうだ! 電波が届いたか、すぐわかるように車のラジオのスイッチをONにしとこう!」
黒いボタンを司が押すと『ザ──』という音しか聞こえなかった。
「昔の深夜、放送後の砂嵐の様な音だな」と、司が言うが綾人には何の事か分からなかった。
「何だよ、砂嵐って?」
「ハハハ、それはだな……」
『ザザ──ザザ──、滋賀──び──、ザザザッ!』
「と、と、と、とーちー!? 今繋がったんじゃない?」綾人は座り方を正して耳をスピーカーの近くに持っていく。
「今、滋賀って話したな!! 天井の岩が崩れ落ちて電波が繋がるようになったのか!?」急いで車を止めて周波数を合わす司。
『ザザ──、ただ今、滋賀県内、琵琶湖周辺に特別警報が発令されております!』
「──!? 繋がった!」二人が顔を見合わす。
『ただちに命を守るため最善の行動をとってください。通信障害で連絡が取れない状態が続いております』
「……!!」繰り返し録音された声が流されているようにMCは話している。
『地震の影響でまだ現地にとどまっている琵琶湖周辺の皆様、災害ダイヤル171での安否の録音が使用可能になっていますのでご利用ください』
司は唾を飲み込む──。
「171……災害ダイヤルならメッセージを送れるかもしれない」
MCの声色が変わる。
『ただ今、最新の情報が入りました!』
『崖崩れによって落ちたキャンプ場からコテージを掘り起こす作業が行われていましたが』
『先程、取り残された親子ニ人を救出しました!』
綾人と司は同時に驚く。「ええっ──!! もしかして、かーちーと茉莉!?」
『女の子は足を骨折しており衰弱していますが、二人とも命に別状は無いとのことです!』
『繰り返します──現在──ザザ────』
ラジオの電波が悪くなりまた聞こえなくなる。何かが電波に影響しているのかもしれない。
「ハ……ハハハ……」
「アハハハハ……」
二人は顔見合わせて、お互いに笑い始めた。そして歓喜の雄叫びをあげた。
「くぅ──────!!」
「やったあぁ──────!!」綾人は、飛び回って喜びを爆発させて、司は、拳を握り締めて天井に向かってガッツポーズをする。
「とーちー!かーちーが、茉莉が……‼︎」
「綾人──! 二人とも無事に助かった──!!」
「あああああぁ──────!!」
「うおおおおぉ──────!!」
二人は互いの肩に手を置きあって喜びを分け合う。
「綾人……やったな」
「逃げ出したいことも、死にたいと言うこともいっぱいあったけど、俺さ……生きていてよかったよ……」
その言葉を聞いた後、司は大きくうなずくと綾人を抱きしめる。
涙ってのは悲しい時や苦しい時、痛い時だけでない。嬉しい時にも──涙は雨のようにポロポロと頬を伝って地面に落ちていくんだなと思いながら綾人は生きてきて一番嬉しい出来事だと泣きながら喜んだ。
「そうだ……グスッ…… 災害ダイヤルに安否の伝言をいれよう!!」暫くして司が提案する。
「グスッ、グスッ……災害ダイヤル?」
「さっきラジオで話してた、震度6弱以上の地震発生時等に利用可能になる伝言サービスのことだ」
綾人はスマホを取り出し画面を見るが、右上の電波マークは圏外と出ていた。
「そこに俺達の無事を伝言に残せばニ人は安心するだろ?」
「うん……ただ、スマホのバッテリーが10%を切ってて、電波も圏外になったり不安定みたいだから何回も、かけない方がいいかも……」
「そうだな、いつ繋がるか分からないのに何回もかけ直すのは良くないな……そういえば、昔は良く携帯電話からアンテナ出して繋がるところを探してたっけ」
司は少し考えると車のボンネットの上に乗って、さらに天井に足を乗せると立ち上がるとスマホを頭より高くする。
「そんな…… 昭和の携帯電話じゃあるまいし……」冷ややかな目で司をみる綾人。
「ここ! 一本立ってるっぽい、かけるぞ‼︎」
「うそ! 本当に?」
<ピッピッピッ、ピッ……プルルルルル──>
「おお……かかった!? 繋がれ……繋がれ!」
『こちらは災害用伝言ダイヤルセンターです。録音される方は1(いち)を──』
「来た──繋がった!!」決定するボタンを押して、司はすごい早口でメッセージを吹き込む。
「神野司です。綾人とニ人無事で、天井に穴が開いた場所に向かってます。受付から一番離れた、コテージの場所を目指してます!」
メッセージをお預かりしましたのガイダンスが聞こえる。
「よし、録音終了! 送れる時に位置情報と一緒に写真も送信しよう。そうだ綾人、無事な姿の写真撮っておこう!」
ボンネットに足を下ろしカメラアプリを起動させてる途中、グラリとバランスを崩す。
「あ、あっ! おっとっとっと──」足をワイパーに引っ掛けた司は、その場で大きくこけると、綾人の頭上を超えるようにスマホが円を描きながら地面に飛んでいく。
運が悪かったのだろう、偶々、地面に亀裂が入っていた場所に滑るように入り込む。
「あー、スマホがー!!」
「うわっ──、もう何してんだよ!! 」
急いで拾い上げようとする司だが、随分と下へ落ちてしまい取れそうもなかった。
「とーちー、頼むよほんと!」怒る綾人に両手で、ごめんなさいのポーズを作る司。
「すまん、スマホが……」
「そっちは、別にいいよ! とーちーの体を心配してるんだって。頼むからもう怪我とかしないで!」
綾人に心配され、司は泣きそうな顔をして再度謝ると自分の両頬を叩いて気持ちを切り替える。
「よし、メッセージは送った……俺達も二人に会いに行くため先に進もう」
「オッケー! 行こう、とーちー」
綾人もまた、沈んだ心を奮い立たせる朗報に、このまま無事に脱出できると──心から思っていた。
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