第13話 緊急クエスト発生!

『今日はどこから捜索するつもりなんだ?』


 いつの間にか麦虎が足元にすり寄ってきていた。


『おはよう麦虎。そうだな、ガフの部屋本体は俺が手に入れたことだし、今日はユナを目立たせてみようかと思う。ブービートラップの能力は奪われたが、そもそもその能力はユナの中身を見ないことには発動しない。犯人の狙いは間違いなくユナそのものも奪うことだろう』


 いわゆるおとり作戦だ。回収を命じられた時点で奪った犯人の粛清も織り込み済みの指令である。


『しかし、不思議なものだな。これだけ大規模な精神汚染の魔法が使えるのに、敵はユナの思考を操作して強制的に従わせようとは思わなかったのか』


 麦虎の言うことは一々御尤もである。


「ユナ、犯人から精神攻撃は受けなかったのか?」


「んー? 特に何も。ユナはスルーされた感じ」


 どう考えてもおかしい。それならブービートラップを突破してまで『ガフの部屋』に近づいたのはなんのためだと言うのか。


 まさか、中身が何か知りたかったとか。『オルフェウス』が飾られていると犯人が気付き、……いや、絵画を狙っていたのなら絵画を盗むだろう。やはり犯人とは気が合いそうにない。


 食事を進めながらも閏が器用に首を傾げていると、麦虎が足元でミャーと鳴いた。


『今はわからないものを無理に考える必要はない。敵はおそらく複数犯だろう。三重の網を張った上でブービートラップを突破したのがもし単独犯であるのならば、単純な話ユナに精神攻撃を仕掛けているほど魔力に余剰が無かったことになる。しかしそれは極めて阿呆な答えだ』


 まるで自分が阿呆だと言われているようで閏は喉を詰まらせた。


「げほっ、げっほ!」


「慌てて食べちゃだめだよー!」


 ユナに水を差しだされて一気に飲み干した。食事も今喉に詰まらせたもので最後だ。


「……ごちそうさまでした」


「おそまつさまでした♪」


 いそいそと食器を片付けるユナの姿は新妻に見えなくもない。ご機嫌に歌声を口ずさんでいる様子も新妻っぽくはある。奇抜な魔女の衣装でなければの話だが。


『まぁ、とりあえずユナのやつは何もしていなくてもひたすら目立つ。これで犯人からなんのリアクションもなければ、目的は別のところにあると考えて手がかりを見つけ出すしかない』


 麦虎は金色の瞳を細めた。


『なかなか面白い暇つぶしになりそうだな』


(今の表情は笑っていたのか……)


 猫の笑顔は怖いと考えながら、席を立った。ユナが食器を片づけ終わるまで待ってから、一階のロビーにやってきた。


 目的は御式商店出張所でユナの学生証を作ってもらうことだ。


 閏の姿に気付いた美也は笑みを浮かべて手を叩く。隣にはことりの姿もあった。


「時十様、ユナ様、麦虎様、昨夜は危ないところを助けていただきありがとうございました」


 ご丁寧にお辞儀して礼を言う美也に「顔を上げてくれ」と言った。


「俺のことは閏でいいよ。それより、事情はことりから聞いたと思うが、ユナの学生証を作ってほしいんだ」


「学生証ですか? それっぽいものでしたらお作り出来ますけど、おや? さてはユナちゃんも制服一式をお忘れで御座いますね」


 まだ美也は精神状態がぼんやりとしているらしい。


「ユナはこのままで大丈夫だ。召喚獣と同じだよ。衣装も魔力で作っているから脱がせない方が魔力を高いまま保てる。学生証もそれっぽいもので十分だよ」


「それでしたらせめて襟に校章をお付けしましょう」


「それで頼む」


 パシャリとユナの顔写真が撮られた。「ひゃあ!」とユナは驚いている。


「お名前と年齢とクラスを教えてくださいね」


九石さざらしユナ、十六歳。俺と同じ四組だ」


 ユナが首を傾げる。


『ん~? さざらし?』


『苗字だよ。地上界では苗字があるのが普通なんだ』

『そういうことか~♪』


 納得しているのかユナはご機嫌そうだった。しかし、和やかな雰囲気も突如響いた警報音とアナウンスによって崩れ去った。



「ビービー! 緊急クエスト発生! エデン内部に存在する『見ると死ぬ部屋』を発見せよ! クエスト達成者にはS級召喚獣と契約する機会が与えられます!」



 アナウンスが響いた直後、学園内は大騒ぎになった。


「うそ!? S級と契約できるの!?」

「探しに行こうぜ!!」

「うえー『見ると死ぬ部屋』なんて見たら死ぬじゃんか!」

「見なきゃいいのよ! 見つければいいだけなんだから!」


 生徒たちは騒がしく話し合いながら『見ると死ぬ部屋』を探しに駆け出していく。


「……動くまでもなく、犯人が動いたな」


 あまりにも行動が早くて閏は多少呆れた。


「ユナちゃんが『ガフの部屋』だって犯人は知らないわけ?」


 ことりの疑問も確かに御尤もである。しかし、背後から答えが現れた。


「ひひゃひゃひゃひゃ! 魔人の持つ魔眼でもない限りユナくんの正体を見破ることは不可能! 大体、犯人は部屋の状態のユナくんの中に入ったことはあっても、人型の状態では会っていないのだろう?」


 現れたのは忠國だった。それと、後ろから短髪の男子生徒が姿を現す。


「よう! 昨日は助けてくれてありがとな! オレは市ヶ谷優太だ! よろしく!」


 元気な男子生徒は昨夜、美也と一緒に助け出した四組の生徒だった。


「よろしく。優太はクエストに行かなくていいのか?」


「ひでぇな。オレも能三先生から事情を聞いているんだぜ。恩人を売るような真似はしねぇよ」


 どうやら忠國の口は軽いらしい。


「それよりさー、優太はどうして異空間に入っていたの?」


 ユナの疑問に優太は頭をかきながら照れくさそうに話した。


「実は、時十に絡む前に志島は三組の生徒をいじめてたんだよ。オレは止めようと思ったんだけど、教室が違うし、合同授業でも離れるから中々そいつに話しかけられないし、直接現場も押さえられなくてな」


 参っていたんだと優太は話す。


「ところがそいつ、一昨日から姿を見せないんだ。噂じゃ志島たちが『見ると死ぬ部屋』の話を利用して肝試しをさせたらしい。それでオレは夜の校舎から帰ってきてねぇんじゃないかって思って」


「助けに行ったのですね」


 美也は勇者を讃える女神のように微笑んでいる。


「あ、いやでも、助けに行ったけどオレが逆に助けられたし、ははっ、情けない……」


 ずっしりと肩に重石を乗せられたかのように優太は落ち込んだ。


「情けないなんてことないだろ。行動しただけ優太には漢気がある」


『貴様とは大違いだな』


『うぐ……あれは、作戦で……』


 しかし、いじめられていた姿はどう繕おうと情けなかった。



☆☆☆

次回は悪い奴が出てきますよ! ボコボコにしてやりましょう!


皆様の♡や☆やフォローでの応援お待ちしております!(^^)!


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