第14話 忠國の春と優太の地獄
「んで、能三は何しに来たわけ?」
ことりの指摘に忠國は胸を張って答える。
「無論、教師である私ですら知らないクエスト発注者にユナくんを引き渡しぐほぉ!!」
忠國のみぞおちにことりのエルボーがクリーンヒットした。
「人でなしは処理したわ。閏、犯人の目星はついていないの?」
「ユナが犯人を覚えていれば良かったんだが」
ちらっとそのユナの方を見ると阿呆な笑みを浮かべている。
「人型だった! んとね、背はみんなと同じくらい! あとね顔もみんなと同じくらい!」
「この通り、部屋に犯人の姿を聞いても性別すら判断できていない」
「困りましたわね。わたくしも当然、ユナさんのご家族の捜索に参加したいのですが、どこから探せばよいのでしょう」
「オレも協力するぜ! でも、部屋の家族ってなんだ? ペットか?」
どうやら人を介すると伝言ゲームのように正しい情報が伝わっていないようなので、改めて閏から情報を提供した。
「オレはやっぱりもう一度、異空間の中を探したい。三組の奴もオレがドジ踏んだせいでまだ見つかっていないんだ。でも、エデンの中にいることはわかっている。欠席扱いになっていないからな」
セツナと名乗るブービートラップも異空間の中にいる可能性は高い。『ガフの部屋』本体であるユナは自身の魔力をイメージによって変えられるが、ブービートラップの方には魔力の変質という性質など持ち合わせていない。
性質そのものが罠の効力だからだ。つまり、人型になれない。ユナの言うようにぽわわわんとした光の球体でうろついているのだろう。
そんな状態で地上界に居ればすぐに見つかってしまう。犯人から隠れようと思ったら異空間の中に入った方が賢明である。
「いたたたたぁ、私はユナくんのために犯人を成敗してやろうとしただけだぞ!」
「あんたさっき引き渡すって言ってたじゃない!!」
復活した忠國をさらに蹴り飛ばそうとすることりのすらりとした足を忠國は掴んだ。
「きゃああああああああああああっ!!」
「よく聞くんだ魔人の息子よ。まず犯人が誰なのかわからないことには対処のしようがない」
「いやああああああああああああっ!!」
「だからこそ、まずは犯人を特定するためにユナくんを引き渡してだな」
「離しなさいよ!! パンツがっ! パンツ見えちゃうじゃないのよっ!!」
ことりは羞恥で涙目だった。高く上げた足を掴まれているものだから、手でスカートを押さえても際どい角度からパンツが見えそうだ。
「私がS級の悪魔様と契約を果たし」
「能三先生。すみませんが、ことりの悲鳴で何も聞こえないので足を放してあげてください」
ちらっと忠國はことりの方を見た。
「なぜ人間の小娘はやかましいのだ」
「放せって言ってんのよ!! このエロ教師!!」
パッと足を放した忠國は頭を抱えてうずくまる。
「……これだから人間の女は嫌なんだ。こっちに欲望が無くてもちょっと触るとセクハラだとか、エロいだのスケベだの……貴様らには毛ほども興味がないと言っているのに……」
ぶつぶつと呟きながら忠國は闇に落ちていた。
「そういえば優太さん、その行方不明になっている三組の方は現在どちらにいらっしゃることになっているのですか?」
偽造の生徒手帳をユナに渡しながら美也が尋ねた。
「わぁ! ぴこぴこ!」
「あんまりいじくるなよ」
ユナは電子手帳が珍しいようであちこち触って遊んでいた。
「そっすね、昨日から場所は変わっていないと思うんすけど」
そう言いながら優太も生徒手帳を開いた。
「やっぱり、今も教会に居ることになってるっす」
閏は首を傾げる。
「教会? 学園の中には居ないということか?」
「ああ、一昨日からずっと教会だ。もちろん、オレは最初に教会まで探しに行った」
美也もことりも生徒手帳を開いて生徒の所在地を確かめながら呻く。
「エデンの教会は一つしかないから間違えようがないわよね」
「魔人教会ですね。大聖堂というわけでもありませんし、かくれんぼにも適しておりません」
しかし、みんな考えることは同じのようだ。闇に落ちていた忠國は復活すると白衣を翻した。
「夜は学園が異空間の入り口になる。ならば昼間は教会という可能性があるな。行くぞ生徒諸君」
全員頷くと忠國の後について行った。
学園の敷地から出て海の方へ歩いていく。先ほどのアナウンスもあり、クエスト達成のため学園から出ていく生徒も多かった。なので、街は閏がやって来た時より賑わっていたのだが、
ドゴオオオオオオオオオオオオオオッン!! と、派手な爆発音が響いたときは街も一瞬静まり返った。
「な、なんだ? どこか爆発したのか?」
閏は爆煙の発生場所が見えないかと上空をきょろきょろ見渡している。すると、優太が叫ぶ。
「教会の方だ!!」
「生徒に先を越されたか!! ぐずぐずするな生徒諸君!! 悪魔様にお会いするチャンスだ!!」
「悪魔とは決まっていませんが、能三先生の言う通りですね。急ぎましょう」
男性陣が先導して教会の方へ走っていく。
「ちょっと! 待ちなさいよ!!」
「ことりちゃん、自転車を取りに学園へ戻りましょう。男性方の足に追いつくことは不可能」
「二人とも掴まって!!」
早々に諦めかけていた美也とことりを拾い上げたユナは颯爽と空を飛んだ。
ユナの頑張りのおかげで教会には全員で到着できた。
海岸の絶壁を背に建つ教会は天井に大きな穴をあけて黒煙を噴き出していた。
「全員、召喚獣を出してください。麦虎、【ライズ】!!」
麦虎が変化した漆黒の刀を携えて、閏は教会の扉を開けた。
薄暗い教会に天井から梯子のように太陽の光が差し込んでいる。
十字架を背にして教会の上空に浮かんでいるのは真っ黒なとんがり帽子をかぶった魔女だった。箒に横座りしており、楽しそうに眼下を眺めている。
魔女の視線の先に居たのは志島久志とお馴染みの取り巻き連中だった。
「遅かったなぁ、時十。クエストは俺たちが頂いたぜ」
閏の姿を見て志島は口角を上げる。どういうことなのか。閏に続いて仲間たちも教会に中へ歩みを進めた。
「ふおおおおおお!! これは魔女様!! ではクエスト発注者は魔女様ですか!?」
歓喜で両腕を魔女に向けて伸ばす忠國の問いかけに妖艶な雰囲気の魔女は微笑んで答えた。
「なんや能三忠國は変わり者やいう噂を聞いとったけど、えらい可愛いお人やねぇ」
「か、可愛い……!」
まんざらでもない魔女の態度に忠國は顔を紅潮させて喜んでいた。
忠國の恋が加速しても消滅してもどちらでもいいが、閏には確かめたいことがあった。
「数千年前、世界を滅亡寸前まで追い込んだ邪神。やつが作り出した魔導具『ガフの部屋』及び『ガフの部屋』にかけられていたブービートラップを盗んだのはお前か?」
艶やかな漆黒のロングヘアーを風になびかせ、真っ赤な口紅で彩る魔女は甘い吐息を零した。
「あてらと言った方が正しいね。魔女族は現魔人のやり方に反発しているのよのう」
魔女族という種族全体が敵に回ったのなら少なくとも百体以上の組織になる。
閏は冷や汗が流れるのを止められなかった。魔女族は最低でもA級以上の力を持っている。
組織として襲われたら、今の閏では戦力不足が明白だ。
「でもなぁ、魔人の息子の意見は今の時点では間違ってるんよ。なにせあてらのところにはブービートラップしか無いからねぇ。あてらとしては『ガフの部屋』本体が無いと計画を進められへん」
ブービートラップが捕らえられているだけでも厄介なのだが。
「セツっむごご!?」
余計なことを喋りそうなユナの口は手を当てて塞いだ。
「先ほど志島久志はクエスト達成を匂わせていたな。クエストにあった『見ると死ぬ部屋』を志島たちは見つけたんじゃないのか?」
それを聞いてにやりと笑ったのは志島だ。教会の天井を破壊したと思われるウォーターフォースに手を掲げると「見せてやれ」と指示を出す。
馬の嘶きと共にウォーターフォースから直径一メートルほどの巨大な水の塊が飛び出してきた。
水の塊を見て優太は身を乗り出して声を上げる。
「村上!! てめぇら村上に何したんだ!?」
水の塊の中には制服を着た男子生徒の姿がある。こちらの姿も見えているようで必死に水の壁を破壊しようと両手で叩いている。何かを叫んでいるようだが、声までは聞こえなかった。
「あの方は行方不明になっていた三組の村上さんですわ」
「ちょっと! 関係ない生徒が巻き込まれているじゃない!!」
美也とことりの訴えに答えたのは志島だ。
「関係大ありだぜ。こいつは教会の隙間に挟まっていたんだ。異空間の狭間にな。俺はウォーターフォースを使ってこいつを捕まえてやった。どう考えてもこいつの存在が『見ると死ぬ部屋』がここである証拠だろ」
人の命を何だと思っているのか。しかし、閏よりも優太が激昂していた。
「ふざけんな!! 今すぐ村上を解放しろ!!」
だが、無慈悲な言葉は上空からもたらされる。
「あてはどちらでもええよ。その子の命を証拠として提供するならS級召喚獣を呼び出させてやろうかねぇ。それとも、魔人の息子よ。本物の『ガフの部屋』本体を提供するかえ?」
最初から閏たちを交換条件でおびき出す罠だったのだろう。
「人の命と引き換えに取引するほど魔人は落ちぶれていない」
閏は刀を構えた。しかし、優太がそれを阻止するように前に出てくる。
「優太……?」
「時十、お前はやらなきゃいけないことがあるんだろ。村上はオレが助け出す。お前は魔女を捕まえるんだ」
☆☆☆
次回、漢気優太!
むかつく志島をなんとかしたい!
みなさまの応援をお待ちしております!(^^)!
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