第10話 悪魔に魅入られている

 鉄製の部屋の扉をノックしたが、中から返事が無い。


 不在かと思ったが、扉をそっと開けると、中には白衣を着た痩身の男性がデスクに向かい合っていた。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ! これだ! これぞ悪意! 人類の終焉だ!!」


 何かを熱心に紙に書き込みながら、不穏な言葉を喚き散らしている。


「こいつは悪魔学の教師で脳三のうみ忠國ただくによ。年齢は二十四歳。本校の卒業生で、学問に関しては頭が冴えるとも言えるけど、こいつを一言で表現するなら異常ね。悪魔に魅入られ過ぎよ」


「なるほど、使えるな」


 閏は妙な気迫の漂う忠國に近付くと、椅子の脚を蹴りで薙ぎ払い、地面に背中から倒した。


「ぐはぁっ!?」


「脳三先生、緊急事態です。生徒が一人行方不明になりました。助けに行きましょう」


 ぐるりと忠國の目玉が動いて閏の姿を捉えると、上体を起こした。


「君は……どこかで見た気がするな」


「時十閏、一年四組の生徒です。きっと授業でお会いしたのでしょう」


 そうだったかなぁと呟きながら、忠國は椅子を戻して座り直した。


「興味ないな。私が興味あるのは悪魔と悪意だけなんでね。出て行ってくれたまえ」


 しかし、ことりが椅子を乱暴に引き、忠國のみぞおちに蹴りを入れた。


「ごはぁっ!?」


「御式美也以上に大切なものはこの世に無いのよ!!」


 なかなかに激しい対応だ。膝をついた忠國は青い顔をして聞き返す。


「ご、御式美也……? 悪魔か?」


「女神よ!! 対極の光よ!!」


 椅子に座り直した忠國は唾を吐く。


「かーーっぺ! 微塵も興味無いわ!」


 それはそれで教師として如何なものか。


「では、邪神の生み出した魔導具には興味おありですか?」


「邪神様の魔導具だと!?」


 忠國は初めて自分から閏の顔を見た。相当興味があるのだろう。


「こちらの女性はユナ。見た目は魔女っぽい女子ですが、正体はかの有名な『ガフの部屋』」


「『ガフの部屋』だと!? では君が『見ると死ぬ部屋』の正体!」


 立ち上がりユナの手を熱く握りしめる忠國は興奮気味に食いついた。


「ユナのセツナを探してください。お願いします」


「君の体を調べさせてくれるならいくらでも!!」


 だが、ことりの背後に立つ召喚獣からライフルの弾が忠國の足元に放たれた。


「あぶなっ!!」


「変態は滅びなさい」


「部屋を検分するだけだぞ!?」


「女子よ。ユナちゃんはどう見ても女の子じゃない。それ以上触れたら眉間に風穴が開くわよ」


 パッと手を離した忠國は閏の肩に手を置く。


「時十、これは男同士の取引だ」

「応じましょう」


「あんたたち最低ね!」


 ことりはユナを庇うように前に出る。


「ユナの王子様みたい♪」


「大丈夫よ。ユナちゃんはあたしが守るわ」


 王子というより騎士のような風格だが、閏は巻き込まれた御式美也を救い出し、インテリアに理解のある慧眼なブービートラップの回収、もとい魔導具の回収という使命さえ果たせれば男として最低でも全く構わない。


 その後、忠國にも今までの状況を説明した。


「そうか、君は魔人の息子か。仲良くしよう」


 握手を求められたので閏は素直に応じた。


「ところで、この麦虎くんは何者であろうか?」


「能力を見てみないことには何とも言えないですが、見ての通り弱っています。あまり麦虎にばかり頼っても事件の解決には至らないでしょう」


『よい心掛けだな』


 麦虎は耳をかきながら満足そうに呟いている。


「ひゃはははははは! 野良の魔獣に魔人に魔導具! 悪意だ! 悪意が集まってくるぞ!」


「魔人には正義があるんじゃなかったの? あんたが授業していたんじゃない」


「ふん、授業用のつまらん話など持ち出すな。正義など見る場所によって意味も変わるものだ」


 確かに授業よりも面白い話だ。見る場所によって変わる正義。閏は正義とは何か考えていた。


「しかし、夜になるまで異空間には繋がらないのか。通りで私が捜索した時には見つからなかったはずだ」


「とにかく急ぐわよ!」


「すみませんが、大切な絵画はこちらに保管しておいてもらってもよろしいでしょうか?」


「もちろんだ! さっそく悪魔様の蔓延る異空間へ突入するぞ!」


 というわけで、閏たちは再度学園の校舎へ侵入することになった。


 おそらく、樹が注意していたのは教師も同行すればいい、という話ではなかったと思うが、閏としては異空間に迷い込んでくれる人間が生徒ではなく大人であれば少しばかり巻き込む心も軽くなる。


 校舎の入り口前に着いた。忠國は額を押さえると高笑いしながら背後に魔方陣を展開させた。


「ひゃーははははは! 出でよ! 悪魔族フルフル!」


 稲光と雷鳴と共に姿を現したのはごつごつした岩の顔面に腕が生えた上半身。腕には棍棒を構え、下半身は牡鹿、背中に悪魔の羽根を生やしたA級の悪魔族だった。


「さすが、教師ともなると召喚獣も強いな」


「ユナこれきらーい! 髪の毛ぴりぴりする!」


「脳三は雷属性なのよ。見た目は最悪だけど、あの悪魔、接近戦も遠距離の雷撃も可能な有能な召喚獣よ。教師の中でも脳三はかなり強いわ」


 良い人材を選べたかもしれない。忠國はノリノリで正面玄関の方に入っていった。


「さぁ行くぞ諸君! 魔女のドレスルームは近い!」


「ホント、性格は最悪よね……」


 閏たちも忠國に続いて校舎の中へ入っていった。


 ロビーへ足を踏み入れた時、魔眼に映る景色が赤く染まった。


『よし、異空間に入れたみたいだな』


『樹とかいう小僧の情報は正確だったか。しかし、まずいな』


 麦虎は鼻先を二階に向けた。



☆☆☆

昨日、勝手に始めたアニメクーイズ☆

正解は攻殻機動隊でした!


攻殻立ちをさせたいため、仲間の数を合わせております!


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